ひとがた
霜天
「天井に穴が開いてね。いつまでも眺めていたら、
なんだか塞ぐのが、勿体無く思えてきたんだ。
ほら、そこから突き抜けていけそうだろう?」
一割ほどの嘘で
彼は再生されていく
残りの九割の行方について
僕らは語り合おうとしている
その駅は、白と青との電車が行き交い
皆が自由に誰かに変わっていった
いくら待っても、鬼ごっこの鬼は現れなかったので
何本かの道筋を見送った後で
ゆっくりと電車に飛び乗った
最初に捕まえるのは、いつも決まってあの子だったんだ
そう笑う横顔に向けて
あの子を好きだったのは僕の方のはずだったけれど
彼は溶けて、また少し再生する
残りの九割は、曖昧な輪郭がいい
進みながら帰っていく
そんな道があった
彼の部屋からは空がよく見えて
僕らはみんな空だったのかもしれない
振り返ると彼は水溜りになろうとしていて
僕は僕で、天井から空へ突き抜けようとしていた
そんな午後
珈琲を含んで
君が目を覚ます