ひとがた
霜天





「天井に穴が開いてね。いつまでも眺めていたら、
   なんだか塞ぐのが、勿体無く思えてきたんだ。
     ほら、そこから突き抜けていけそうだろう?」




一割ほどの嘘で
彼は再生されていく
残りの九割の行方について
僕らは語り合おうとしている


その駅は、白と青との電車が行き交い
皆が自由に誰かに変わっていった
いくら待っても、鬼ごっこの鬼は現れなかったので
何本かの道筋を見送った後で
ゆっくりと電車に飛び乗った

最初に捕まえるのは、いつも決まってあの子だったんだ
そう笑う横顔に向けて
あの子を好きだったのは僕の方のはずだったけれど
彼は溶けて、また少し再生する
残りの九割は、曖昧な輪郭がいい


進みながら帰っていく
そんな道があった
彼の部屋からは空がよく見えて
僕らはみんな空だったのかもしれない
振り返ると彼は水溜りになろうとしていて
僕は僕で、天井から空へ突き抜けようとしていた

そんな午後
珈琲を含んで
君が目を覚ます


自由詩 ひとがた Copyright 霜天 2006-07-24 01:43:26
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