後朝—きぬぎぬ—
まほし

あなたが、水かさを増す

「では、また 」
と 言って
あなたが身を反らして
木立から、わたしから
離れていった
その刹那から

あなたが、視界でいっぱいになる

あなたが、
夜露で濡れる
河原を踏み分け
橋を越え
向こう岸へ、東の果てへ
行ってしまった

あなたが、

あし、ひざ、こし、はら、と
みるみるせり上がって
むね、の辺りで
水面に映る
め、に
め、を
つらぬかれて

わたしは、

盲目になる
みずからの め、で
みずからの め、は
見られないように
あなたを透かしてみる世界は
あなたの姿だけが瞳の奥に
消えて


(底無シノ川ニ、
(二人シテ堕チテイケレバヨカッタノニ



このからだを包むのは
雄の匂いの立ちこめる
薄衣

契りの名残は
空蝉の羽より
脆く

けたたましいなき声が
わだつみの木漏れ日に
響いて

帰れない空から、夜が明ける――







自由詩 後朝—きぬぎぬ— Copyright まほし 2006-07-17 06:31:16縦
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