シーラカンス
あおば

しらばっくれるなよ
大型水槽のガラスにも
人息れで滲んだ世界が
ぼんやりと時を刻む
エアコンに負けて
透明になった世界には
勝つか負けるかの打算が
手段を選ばぬ精神が
ワールドサッカー
一次予選通過を祈って
壁のように張り付いて
今夜の試合が気になって
帰宅を急ぐ通勤電車の
窓ガラス
しらばっくれてよく見えない

本当に
勝とうと思っているのか
残酷な声が
白い世界の奥から聞こえる
しらばっくれているのは
電車線路の通過する時間帯

たくさんの
行列する人たちを置き去りにして
繁栄を続ける現代に背を向けて
ゴミ溜の底から
シーラカンスの剥製を
朽ち果ててから掘り起こそうとする
無慈悲な企て

誰もが予測できない今夜の勝敗
しらばっくれているのは
時代そのものといいながら
今夜の通過する電車の窓からも
明るい窓が周辺を照らし
一瞬の希望を抱かせてくれる

しらばっくれるなよと言いながら
修辞的現代と言われながら
気の利いた台詞の一つも吐けなかった僕は
シーラカンスのように不器用な手足で
冷たい水を掻いて深いところに
より深いところへと潜りもうとする
自らを生きながら葬り去りたい
時代遅れの怪物なのかも知れない

シーラカンスの缶詰、
相手ゴールに蹴っ飛ばせ


未詩・独白 シーラカンス Copyright あおば 2006-06-18 23:00:56
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