「 蹴球時感、一。 」
PULL.
奇術には、
タネもシカケも、
ある。
だからこそ、
再現できるのだ。
前任者のTは、
こう言った。
「わたしの教則本は、
五百ページある。」
だが実際には、
数十ページしか、
なかった。
それでもTは、
二つ勝って一つ分けて、
十六まで残った。
では、
今のZの教則本は、
何ページあるのだろうか?。
そもそもZは、
監督としての教則本を、
開いたことすら、
ないのかもしれない。
ブラジルの十番。
それは、
少年時代の憧れであった。
セレソンの十番。
選手として、
五百ページどころか、
五百冊の引き出しと深みがあった!。
悲しいかな、
監督としての、
野心を持つのが遅すぎた。
十番を背負わない、
唯のZは、
遅すぎたのだ。
カイザースラウテルンの、
芝の戦場では。
Hの銃には、
弾が六つ。
Zの銃には、
弾が一つ。
ロシアンルーレットなら、
Zの勝ちだが、
撃ち合いになれば、
どちらが勝つか。
それは確率で解ること。
ニュルンベルクの、
芝の戦場。
Zは、
どれだけのタネとシカケと、
ページと弾を持って、
征くのだろうか。
マジック。
魔術はいらない。
奇術が必要なのだ。
了。