平日の亡命
AB(なかほど)

  

僕にとっては
とても大事だった友達のうちの
二人には
もう二度と会えない

S君
お前には
いつかは会えるかもしれない
と思っているんだ
講義さぼって
サークル部屋で卓を囲んで
ピンフも数えりゃ満貫
ってのが口癖だったのに
いつも役満ばっかり狙っていた
放学処分になっても
しばらくは顔を見たけど
いつのまに

あれから僕は
ピンフも数えりゃ役満
どころか
鳴いてつなげられるものなら
と何度でも鳴きながら
どうにか生きている らしい
明日へのつながりが
家族へのつながりが
変わりばえのない日々へのつながりが
たぶん大事なんだろう と
数えて役満でなくても
ピンフのみの日々の中でも
前に歩いてゆくことが
今よりも少しだけ平和な世界へと
前に歩いてゆくことが
生きる僕らの



少なくとも僕にとっては
とても大事だった友達のうちの
二人には
もう二度と会えない

田舎を離れて東京も離れて
大阪にいるころに
二人目は大阪も離れて
もうすっかり忘れかけた頃に
とくになんでもない普通の日に
その夜には
いくつもの顔が浮かんできた
たったひとつの命でも
こんなにも多くの心が揺れるんだ


S君
お前には
いつかは会えるかもしれない
と思っているんだ
きっとどっかで
何かをつなげるために
そうさどっかで
歩いているんだろう
誰かと生きているんだろう
役満なんていらないんだよ
ピンフも数えりゃ満貫だ



fromAB



未詩・独白 平日の亡命 Copyright AB(なかほど) 2006-06-03 07:04:09
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