アンテ


底なしだから絶対に近づいちゃダメだ
あなたはわたしの手をしっかりと握りしめて
沼の縁から大きく距離を置いて
濁った水面に視線を落とした
ときどき
得体のしれない気泡が浮かびあがってきて
その時だけ
水面がゆっくりと揺れた
どこか遠くから
奇妙な鳥の鳴き声が聞こえてきて
別の方向から
応えるように別の鳥が鳴いて
それらはまるで似ていないのに
なぜか同じ種類の鳥だとわたしは知っていた
近づきさえしなければ安全だよ
絶対に
あなたはわたしを振り返り
自分に言いきかせるように笑った
落ちていた小石を投げ入れると
幾重もの波紋が生じて
沼の縁まで達して消滅した
なにかおいしいものでも食べにいこうか
わたしはうなずいて
でも
沼から離れられずに
その場に膝をついて
水面に手を伸ばした
ダメだよ引き込まれるから
肩をつかまれて
それでも
沼の底にあるもののことが頭から離れなかった






自由詩Copyright アンテ 2006-05-21 23:43:38
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