黒崎にて
k o u j i * i k e n a g a

(一)

駅の改札を出て
長い階段を下りたところで
醜く太っていて、サスペンダーと蝶ネクタイをした
男に声をかけられた
公然わいせつ以外のすべてのこと。

世界と呼ぶには狭すぎる生活、
実際に四十三歳の女性と
交際してわかったのは
青春を引きずって生きることの苦しみ、
隣でバーチャコップに興じるあなたの
瞳に映る標的の血しぶき。

「マッチってまだレーサーやってるの?」と
通りすがりのおばさんから
突然、尋ねられ
「はい、まだやってます」
とは
言えなかった夏に。

料理の鉄人に勝ったシェフの店は先月、
ガス爆破されてしまった
残ったのは九十年代の思い出だけで
イベリコ豚も、もういない。

黒崎そごうのおもちゃ売り場に呼ばれた俺は
「あの子、セイントセイヤが好きやったけんね」
うん、確かにそうだった、
変なズボンをはいていた同級生が言った
「アヒル口の女の子ってかわいいよね」の意味も
よくわかっていないまま、笑った。

(二)

大人になった彼(姉と二人暮し)は
「作品の中で少女を殺しすぎた」俺にそう告白し、
しばらく後に塩豆大福で窒息死した
事故か自殺か、未だにわかってはいない。

学生だった頃、駅を出て長い階段を下りたところで
醜く太っていて、サスペンダーと蝶ネクタイをした
男に声をかけられた
公然わいせつ以外のすべてのこと
をしないか。

拳が弱いので、ハンカチはいつも
持ち歩く。
鼻は横から殴るのがいい、
とてもよく効くし、殴る方も怪我をしにくい。

黒崎から筑豊電鉄に乗り換えて、
お土産を買っていないことに気づく。
黒崎そごうは、今はもうない。


未詩・独白 黒崎にて Copyright k o u j i * i k e n a g a 2006-04-27 22:44:03
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