去年の春のこと
はな 

明け透けな 夜の温度を 手ではかり


*


きょねんのわたしが
さくらのしたでそつぎょうをしているころ
まだはだざむいこうえんのベンチで
あなたは
またはんぶんになってしまったからだで
ゆびさきを缶コーヒーで あたため
ねこのこうびに
はるをかんじていました





「春先」


ぬるい新学期に
とおく
ぼやけたすいへいせんが見える

おはよう

重なる声
とおりすぎるとき
目を合わせずに 
あなたは またわらう


やがてすべてがすなになる予感を
だれもが胸にうかべていて
あたしは
なにひとつ 手にできないまま
ただふってくるはなびらのおびただしいのに
目を閉じる

ただもう少し
日が 長ければ と
背中あわせではかった あの日のかざむき


教室にさしこむ朝
おしまいまで散ること
明くる日 また目を覚ますことのように
もう少しかんたんに
あたしや あなたの屑を
灰にしてゆけたら 

あなたが きょうの朝に
わらわなくても 
すむように





「魚群」


いつかのわたしたちは
口笛のきこえる校庭に
むらさきいろのゆびをすてた
遠く雲はかすみ
それがやがて 何になるのかなど

桜はふらず
そういうものを望んで見上げた 
きょうのそらには
魚影のように


ちいさなこっぷに
互いにふざけあって
わらいながら
しずかな歌を吹き入れた
とうめいに
がらすのむこうがみえないほどに
きすしようかって
ちいさな声でつぶやいて
あなたがまた 
わらえば 好いとおもった

はじめて浴びた雨をおもいだしている
凝縮されたせいめいのなりたちみたいに
むかし、
あたしにはおひれなど
なかった


みあげたそら、曇り
まっ白に
うすはいいろのくうきから
こぼれおちてくるむすうのものは
雨よりも、少しかんざしに似た
こはくいろを 
していた




幸せを
手あたりしだい しずかにあつめる
そうしてうしなったものと
枝を伸ばしてゆくものを
ことしのはるに 空へと放つ



未詩・独白 去年の春のこと Copyright はな  2006-04-23 22:52:25
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