歯を立てて、悲鳴を。
田島オスカー


噛み千切ってしまおうかしら。
痛いだろう、そんなことをしては。
そんな会話ばかりが
あたしを幸せにしていた

おまえの髪に指を通すと、人のぬくもりがあらわになるね。
冷たい指先があたしを
遊んでいた
いつもあたためるのはあたしで
そんな事実でさえも
あたしを幸せにしていた

おまえもおとなになってしまったね、かなしいよ。
あなたが言ったからあたしは
おもいきり時間を後悔しはじめて
でも冷えた指先への口づけを
何よりも好むあなたには
育ってしまって寄り添うしかなかった


おまえに噛み千切ってもらって、しんでしまえればよかったよ。


ふらふらと揺らぐ自我の奥に
あなたの指先が泳いでいて
何もこぼれないままにあたしは息を止めた
無酸素のままあなたのいない時間を数え始めて
苦しくなってしまって
やめた

あなたが他所の女の髪で
指先をあたためていなければそれでいい
唯一とはあたしには
そういうまぼろしの、


噛み千切ってしまおうかしら。
痛いだろう、そんなことをしては。

 


自由詩 歯を立てて、悲鳴を。 Copyright 田島オスカー 2006-03-23 01:38:01
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