あとがき
よねたみつひろ

 「捧げる詩集」(1995年・緑鯨社)には、1988年から1990年にわたって個人誌「風羅坊」に発表した作品を収めた。個人誌といっても、B4用紙に短い詩を毎号6〜8篇コピーして読んでほしい人に見境もなく送るのである(笑)。コンセプトは、「短く、平明で、身辺的」であること。そこにはそれ以前に親しんできた「現代詩」的な構文への反発があったが、書いているうちにそんなことはどうでもよくなった。私は昭和から平成に移行する時代とともに歩みながら、妻のことや子の誕生を避けられず謳った。その意味でこの詩集は、私にとって(おそらく私にとってだけ)かつて詩と世界がシンクロしたことを思いださせてくれる幸福な一冊といえるだろう。と臆面もなく書いておこっと(笑)。
 最後までお読みくださったみなさん、ありがとうございました。以下は付録です。



 
●1994年8月25日
 
今日の集金ゲームはけっこう                                
おもしろかった                                     
組織の一員としても                                    
りっぱにふるまった                                            
と思うが                                                    
まあ                                             
それはそれとして                                                 
あしたは休日たのしいな                                              
手を洗って                                            
大急ぎで帰宅した


●そのつづき

部屋には誰もいなかった                                
テーブルの上の                                     
木製のアヒルの「ガーコ」が                                     
くわえていたメモ紙によると                                            
こうである                                                   
「あたしら                                             
 サンリオピューロランドで                                                 
 遊びまくってくるから                                            
 遅くなると思うの                                            
 よろしくね」


●そのまたつづき

そうかそうか
それならそれでいい
とりあえずメシにしよう
炊きたてゴハンは保温され
冷蔵庫には つくりおきのオカズ
焼き魚に肉ジャガにカボチャの煮物
トマトとレタスのサラダ
それから奥のほうに
大量の冷やゴハン
冷やゴハン!


●そのまたまたつづき

冷やゴハンにはインスタントラーメン!                                
そりゃもう青春時代から決まっているんだ                                    
みえこは怒るだろうが                                    
なぜか一人になると食べたくなる                                            
それもサッポロラーメンでなきゃだめなんだ                                                    
しゅとるむうんとどらんぐ!                                             
夕張メロンのような月の下                                                
汗まみれ 息せき切って                                             
わが愛自転車「アカクン」で                                           
セブンイレブンにかけつける


●そのまたまたまたつづき

はげしい夕食を終え                                
食器を洗って証拠湮滅したとき                                   
デンワが鳴り                                    
みえこから業務連絡                                           
言われたとおり                                                    
駅の改札口で待っていると                                             
わが娘ユキがかけてくる                                                 
「クレヨン新ちゃん」の身ぶりで                                             
その後ろから                                          
わが愛サイも突進してくる


●そのまたまたまたまたつづき

目がさめると午前3時                                
ゆうべ                                     
みえこがユキに「アンパンマン」を                                     
読んでやるのを聞きながら                                            
うっかり眠ってしまったんだ                                                    
なんたる不覚                                             
キリキリ起き上がって                                                
封筒の束をとりだし                                              
濡らしたタオル上にならべた切手を                                           
次つぎに貼っていく


●そのまたまたまたまたまたつづき

切手貼りが済むころ                                 
夜が明けはじめる                                    
今度は封筒の裏にスタンプを押す                                    
それから宛名書きだ                                           
ワープロのフロッピーから                                                    
「送付先名簿」なるものを呼び出し                                            
感熱紙に印字するのだ                                                
それからそれを個人名別に切っていく                                            
むしょうに無償の喜びをおぼえるひととき                                            
自意識のいやらしさとも向き合うひととき


●そのまたまたまたまたまたまたつづき

そのあとは                                 
封筒に宛名を貼る                                     
だから宛名書きではなく                                     
宛名貼りと言うべきか                                            
何時間もかけて                                                   
ついに貼り終えると                                            
不思議な達成感がある                                               
あとは詩を入れるだけだ                                              
が まだ                                           
ひとつもできてないのだった



自由詩 あとがき Copyright よねたみつひろ 2004-02-04 23:54:39
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