a.u.i.

私の前には先生が歩いていた
あの角まで あの角曲がるまでに
奴をどう調理してやろうか、
そんなことばかりが頭を滑走
肩越しに見え隠れするオレンジを睨む
舞い散るチョークの粉は美である
どうして
私が私、であり
あなたが、あなたであることを
わかれないのであろう
そんなことたちの所在を
細やかな粒子の中に探した


先生は、
先生は
自分は白血病であると私に告げた
私は酷く怖かった
悲しくて毎晩泣いた
怖くて抱えすぎた両の膝はVの字を成したままで
いずれ歩けなくなった
でもそのことは全く
怖くは無かったんだ
私は祈った
不甲斐ないが祈った、不甲斐ないがため祈った
けれどそんな祈りもすべて
明日にはチョークの粉に紛れて
届かなくなってしまう気がした
    考えてもわからないことがたくさんある
    それは鳥が羽を手に入れたことに似ている
先生はそう言った
ならば
私は私で良かったと思った

ある日
それは、潰した上履きの踵が少し自分を許し始めたような
そんな日であった
言葉が廊下を這った
    あれはあいつを手中に入れるための嘘だ
    どうも厄介な生徒でね、
それは先生の声であった
考えてもわからないことがたくさんある
それは鳥が羽を手に入れたことに似ている
という言葉が
鳥のようにして
私の中を滑走するのでした

短いスカートが寒い
これで世の中を風潮してみせよう
寒さ染み渡るこの公園ものびきった猫の棲家も
意外と寒くはない、と
潰しきった上履きの踵が唯一己の存在である
そうだきっと
此処には色んなものが溢れかえっているのであろう
問題はそれらを
どうやって黒く、白くさせないかである
遮断機が目を真っ赤にさせている
彼もまた、つらいのであろう

ロッカーを閉めて外へ行こう
そして窮屈なローファーを踏み鳴らせ
いつしか時化たこの街にもあの街にも
きっと順応できるように
いや、
    順応できますように。
そっと祈りごとを終えて
きゅ、っと握ったロッカーの鍵から
冷気が手に染み渡った
    あゆみ 
この名前をありがとう
あゆもう 


考えてもわからないことがたくさんある
それは鳥が羽を手に入れたことに似ている
だから私は鳥になろう
そしていつか私は鳥になろう
次の角までに


未詩・独白Copyright a.u.i. 2006-03-10 23:14:51
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