彼は逢えただろうか。
クローバー

彼は、空の絵を描いていた
空気の色を、探していた
捕まえようと、筆を振り回したりしながら
まだ、筆先は、毛の色のままだった

彼は、いつまでも、空の絵を描いていた
失った恋人が、空にいると
信じていた
画用紙は、空っぽのままだった

彼女の色は、何色だったのか
思い出せないでいることをすごく恥じていた
彼女の空気が
愛しかったことは覚えていた

彼は、ときどき、ほんとに、ときどき
空を見ながら、笑う
近所では、もう有名人である
彼が、空の絵を描き始めて、もうそろそろ、4年になる
彼の居場所は、公園のベンチと決まっていた
その姿を、ある人は、哀れんだ
そして、それ以外は、蔑んだ
どうやって生きているのか、家族はいるのか
知っている人はいなかった

ある寒い朝
彼は、画用紙の空の中にいってしまった
彼は、空の絵を描くことを望み続けて空になってしまった

そんなことを気にする人は誰もいなかった
公園は、ずいぶんと、きれいになった
人々は、喜んだ

ただ日に当たって古くなっただけの白い紙が
くずかごに捨てられていた
それは、空気の色をのせていた
ボクは、ずいぶんと、汚れた空の絵を見た

それには、彼の愛した人が描かれてた
確かに、描かれていたけれど気づく人はいなかった
傑作だと思ったけれど
これは、彼の絵だから、ボクは折り目がつかないように
焼却炉の中に置いた。


未詩・独白 彼は逢えただろうか。 Copyright クローバー 2004-01-28 20:32:37
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