朝夕のあんず色
田島オスカー
ひとつだけ思いがぶり返す
すべては 沈みたいがために
あの人はいつも 優しくている
それが痛々しいとは 知りたくないようだ
置いたままにしたスミノフの瓶が
ひとりでに倒れるのを
あたしはもう二時間も待っている
自由に生きていけるのはきっと神様だけで
人は誰も縛られている
気付いてしまったあたしは
もうなにものにも きっと勝てなかった
ポールの苺ジャムが
瓶ぞこで朝焼けにきらめいている
小さくなってそこにもぐれば
甘く淡く 眠っていられるかしら
スミノフもジャムも
あたしを沈めてはくれない
割れてゆく爪が哀しくなくなってから
きっとあたしは
夕焼けの中にだけ生きている