空は空
アンテ


                      26時 @ハト通信

雨の日には
縁側にコップを並べて
軒から落ちる滴を聴く
とても気持ちのいい響きも
トンチンカンなメロディも
一様に
辺りをひとしきり転がってから
空に帰っていく
伝えたいこと
伝わらないこと
が渾然一体となって
景色を叩く雨音にかき消されて
最初からなかったことになる

曇りの日には
虫取り網を持ち出して
屋根にのぼる
柄をいっぱいに伸ばして
それでも足りずに爪先立ちして
微かな手応え
を逃さずに引き寄せても
網は空っぽのまま
風が笑っている
よぉし そっちがその気なら
泣きじゃくるフリをして
こっそりと空を窺う
虫取り網の準備は怠らない

晴れの日には
買ったばかりの絵の具と筆を出して
白い服に模様を描く
羽を広げた鳥
もつれ合って昇っていく風船
花びらが満開のひまわり
だれもみな
空が愛おしい
証拠に
服をまとって駆け出すと
こんなに身体が軽い

次の日には
またべつの空
違うわたしが待っているけれど

いつだって
空は空

いつだって
わたしはわたし



未詩・独白 空は空 Copyright アンテ 2003-07-16 02:03:14
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