判らないなら
アンテ


                     74時 @ハト通信


都合のいい言葉は
いくらでも見つかった
だれもいない島

ガラスでできた家
とても頑丈な入れ物を作り上げて
中に閉じこもって
わたしは平気
くり返し
自分に言い聞かせていれば
どんな波もそのうち過ぎ去った
今までずっと
それでうまくやってきた

詩なんて
もうやめた方がいい

本当に伝えたいことだけが
うまく表せなかった
とても大きな滑り台
ナイフ
死んだ鳥
取って付けた道具で
取って付けた結末を作り上げて
わたしはここにいます
だれかに伝えた気になって
それでしばらくは安心していられた
本当に伝えたいこと
なんてない事実を
しばらくは忘れていられた

言葉で表すだけなら簡単
だれかが平気でそう言うたび
胸のなかでなにかがぎゅっと潰れた
自分が楽をしているからといって
他人まで同じだと
決めつけてしまえる単純さが
でも本当は羨ましかった
そう
今なら判る気がする
しょせん
言葉で表すだけなら
簡単なんだ

叫びたいなら
苦しいなら
詩なんて
もうやめた方がいい

オオカミ少年は
毎日平気で嘘をついてばかりで
人々がみんな
取り返しのつかない嘘で傷つき
歯を食いしばって生きていることなど
判ろうともせずに
自分がついた嘘がもとで
命を落としてしまい
そのことで
人々はまた新たな傷を負いました

わたしの中身はからっぽで
空洞があいている
入り口から音が入ってくると
内側の壁に反響して
減衰して
出口から出ていく
自分で入り口に蓋をして
もうどれくらいたっただろう
出口に耳を当てると
ふぅぅん
かすかに音が聞こえる
空耳なのかもしれない
身体が震えているせいかもしれない
どちらもたいした違いはない
時々花を買ってきて
出口に挿してみる
数日で枯れてしまう

そんなたとえ話が
気まぐれに出てくるたび
自分の名前を貼り付けて

そんな詩なんて
もうやめた方がいい

人恋しくて
なのに自分のことだけ考えていたくて
だれかを傷つけるのが嫌で
他人が傷つけ合うのは平気で
泣き虫で
笑うことなどなんでもなくて
全力で向き合わなければ気がすまなくて
考えて判ることにはなにも感じなくて

わたし
これがわたし

もう一度考えて
それでも判らないなら
詩なんて
もうやめた方がいい

最後に全力で走ったのは
いつだっただろう
最後に叫んだのは
最後に泣いたのは
最後に
鼓動がなったのは

やめたくない
わたし





未詩・独白 判らないなら Copyright アンテ 2004-01-24 02:09:23
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