十五分の手紙
松本 涼

運河の方へと枝を伸ばす木の下に居ます
十五分の休憩時間に会社を抜け出して
頭の中で君に手紙を書いています

目の前には誰も乗っていない船が少しだけ揺らいでいます
今日はとても風が強くてそのせいで
僕は昼間から少し哀しいのかもしれません

今頃君は遠く遠くでせっせせっせと働いているのでしょうか
同じ空の下にいるなんて言葉には何の力もありません


今僕は君の手を想像しています
けれどそれはまるで違う誰かの手なのかもしれません

なぜなら手どころか頭の形だって背の高さだってよく思い出せないのです

そういえば君が僕の手に興味を持たなかったことはちょっと残念でした
僕は手以外は自分で気に入っているところがあまりないのです


今運河の上をモノレールが通りました
その後姿を見ているとまるで僕の体も運ばれそうになります
出来れば運ばれたいとも思います


誰かが走ってやって来ました
会社の人です

上着も着ないで急いでタバコを吸いに来たようです
今会社は一時的に禁煙なのです

「寒いですよね」
僕は話しかけてみました
「ああ」

それから二分くらい二人とも無言のままです
会社でもあまり話したことのない人です

しばらくしてから寒さに耐え切れなくなった彼は
「もうダメだっ!」
と叫んで会社に走って行ったので
僕は少し笑いました

本当に今日の風は冷たいのです


もうそろそろ時間なので
僕も会社に戻ります
せっせせっせと働くためです

だけどやっぱり僕は
君が同じ空の下にいるなんて信じられません






未詩・独白 十五分の手紙 Copyright 松本 涼 2006-01-05 19:15:12
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