ボディピアス
あまくちペルノ

私の右耳には、いわくつきのピアスの穴がある。

この穴をあけたのは大学に入った初夏だった。
いたく衝動的に、ある日、安全ピンで、ぐりぐりと、
部屋にいて突然に思い立った事をそのままに
実行に移してしまった。
不思議と痛みは感じなくて、むしろ心地いいくらいで
ピアスが大嫌いだった私が こうも簡単に穴をあけるなんて
なんだかおかしくて、不思議なことだった。


穴を開けたのは、あるくだらない願掛けがあったからだ。

この穴の願いは未だ誰にも話していない。
どうやってももう叶わない事をここに封じ込めていた。
今となっては、願をかけた当初の理由と情熱は
遠くさめてしまって、もう二度と戻ってくる事はない。
だけど、この穴がひとつあれば、その頃は
なんでも乗り越えられるような気がした。
私の希望のような気がした。
自分に印がついた事が誇らしくさえあった。


その後しばらくは穴の存在は薄れ、忘れられていた。
忘れて、こんな穴なしでも生きていける。
私は耳じゃなくて胸の中にその心を背負っていこう。
そう忘れられた筈だったのに。


昨日下北沢で、気がつくとピアスを手にしていた。
店員に商品を手渡す。白いトカゲのボディピアス。

店をでる。出来るだけ急いで。
袋を破く、台紙をめりめりと剥がす、乱暴にそれを
耳の裏にあてがい、押し付ける。
ぐりぐり、めりめりと、ぎりぎりと。
まるでやるせない全ての事をそこに込めるように。

久しぶりの痛みがぎゅんとせまり、ぶち、っと音がして、
14Gはすいこまれた。

よかった、私はこれでまた、ほんの暫くの間だけ
何とか私で生きていける。

痛くてじんじんする事が証のような気がした。
痛みで自分の確認をするなんてばかげてる、
知ってるんだそんなこと誰も今はいわないで。
いやせないなら私に近寄らないで。
何にも知らないくせに!

気がつくと恐ろしく汚い言葉が
自分の頭の中をぐるりめぐっていた。
ほっとしてるけど自分を守るためだなんて
自分が一番良く知ってる。

無茶したかった。
閉じかけていた穴に無理矢理の14Gを突き刺して。
私はまだ自分でつくり上げたちいさな穴に頼っていきている。
自分でかけた願い事に今日も翻弄されているのか?
とにもかくにも私の心臓(むね)にはまだ、消す事の出来ない
黒く大きな固まりが横たわっている。

いつか、ピアスを外しても私でいられる私になりたい。


散文(批評随筆小説等) ボディピアス Copyright あまくちペルノ 2005-12-09 16:28:31
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