合唱の鎖—詩のスケッチブックから
ならぢゅん(矮猫亭)

乾いたピアノの音、そして
三六人の十四歳たちが声を合わすと
市民ホールいっぱいに砂丘がひろがる
その魔法に酔い痴れることなく
十四歳たちは砂地を登り始める
這うように登り始める

かつては自分も同じように
その場所を這い登ったことがある
そう思うと
少しは許せるような気がしてくるのだ
あの頃の私を
この頃の私を

砂丘の向こうには海
そしておびただしい数の軍艦
その砲先の狙う岸辺には
父と母との鎖が
幾重にも幾重にもきつ立し
おびただしい数の砲弾に拮抗している

三六人の十四歳たちは歌い続ける
とどろき渡る砲声にもひるまず
這い登る
四肢にからみ、崩れ、流落する砂地を
太陽の真下
青空に突き刺さる高みをめざして

そして遂に知るのだ
父母らの鎖の二重螺旋のきつ立を
その連なりを自らに許す日
父となり母となった者らの歌声は
いよいよ高らかに響き渡る
合唱の鎖が砲声に拮抗するのだ

※本作品は所沢の中学生たちが歌った合唱曲「砂丘」(作詞:園田恵子、作曲:荻久保和明)の印象に拠る


未詩・独白 合唱の鎖—詩のスケッチブックから Copyright ならぢゅん(矮猫亭) 2005-11-21 12:19:16
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