「詩人さんの朗読はセルフ・プロデュースが多いでしょ。舞台では、演出も監督も音響も照明も
脚本も役者もプロデューサーも全部別のお仕事ですよ。」
私がグラス・マーケッツと出会ったのは、2001年10月6日のこと。声と音の融合をコンセプト
に京都で活躍する、演劇界出身の朗読ユニットです。
http://www.glassmarkets.jp/index.html
彼等の主催する朗読カフェというイベントに参加しました。要するにカフェでお茶を注文すると、
クッキーなどの代わりに朗読が一遍ついてくる、というものです。代表者は佐野真希子さん。
(詳しくは蘭の会のオフラインリポートの一番下を御覧下さい。
http://www.os.rim.or.jp/~orchid/)
佐野さんはそもそもは演劇の女優さん。朗読をしようと思ったのは、ある時、セリフが小説の一部分を
読み上げるのだけど身体の演技が全く無い、という芝居にあたった事がキッカケだそうです。コラージュ的に
芝居に小説を朗読するという場面を入れていたら、その朗読そのものが面白くなっちゃったのだそう。
ポエトリーリーディングとの違いは、リーディングは自分の詩を自分で演出して自分で読んでという、
大抵がセルフ・プロデュースなのに対して、彼らのする朗読というのは、台本があって演出家がいて、
音響係りがいて、役者がいるというノンセルフなところだそうです。
彼らの朗読を聞いて、クオリティの高さに驚きました。張りのあるよく通る声。声質に似合ったテキスト。
上からのライトの明るさもその詩にピッタリで、音響も絶妙のタイミングで入る。地味にテキストを
ただ淡々と読むだけの詩人さんの朗読会をいくつも見ていただけに、その差に愕然としました。下地が
出来ているだけあって、演劇界の人が本気で朗読をやると、強い。詩人さんが付け焼き刃のパフォーマンス
で対抗しても全然太刀打ち出来ない迫力があります。改めて演出の大事さを考えさせられました。
別にセルフ・プロデュースでも、ノンセルフでも、いいんです。要は朗読するのに必要な要素の一つに
演出というのがある、ということを思い出してもらったら、それでいいと思います。
たとえば、朗読する時に衣装はどうするのか。ライトはどこからどういう角度で当てるのか。あるいは
音楽は流すのか。一人で読むのか、多人数で読むのか。動きはどうするのか、あるいは立ち位置は。
おそらくは、同じテキストを読んでいても、それらの演出で全くと言っていいほど、観客が受ける
印象やイメージの量や質が変わってくると思います。
演出とは、自分の伝えたいイメージを最大限相手に伝えるための補助器具のようなものです。舞台で劇
をする時、普段着の役者さんがただポツンと立っているよりも、役柄に合った服装や小道具を持った方が、
観客が劇にのめり込みやすいのと理屈は似ていると思います。
大事なのは、あくまで朗読なのですから、過剰演出になって、肝心のテキストがおろそかにならないよう
にすること。衣装や照明や音楽ばかりに凝って、肝心の役者の芝居がダメダメだと舞台が失敗するのと同じ
ですね。
もちろん、自分の思っている詩の世界に、自分の声だけで相手を引きずり込むという演出もありだと
思います。でもそれは、何も考えないでただそうしたというのではなく、色々試してみて、考えた末に
音楽も照明もマイクも衣装もなしで暗闇の中から声だけ響く方がイメージが伝わる、というのであれば。
その方法が自分とテキストに一番似合っていたのであれば、それはすばらしい演出なのだと思うのです。
●覚え書きメモ/その6:ただ読むだけじゃなく、演出を考えましょう。
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以上が、私が朗読をはじめたばっかりの頃に、色々な詩人さんとか演劇人の方に手ほどきを受けて、
私なりに解釈した朗読の初歩メモです。本当にごくごく初歩なんで、朗読暦の長い人なんか、あきれ
たんじゃないかと思います(笑)。もちろん、私は朗読のプロではありませんし、間違った解釈をしている
可能性だっておおいにあります。ですので、また読んだ後に感想にでも「これはこういう意味じゃない」
とか、「ここ、間違ってるよ」とか書き込んで下さるとありがたいです。
でも、私にとっては必要な6項目でしたし、少なくともこの6項目を考えて朗読をするようになって
からの方が、人に伝わるものが多くなったという実感があります。もちろん、個人個人で向き不向きも
あるでしょうから、アレンジは多少必要でしょう。たとえば、呼吸法訓練一つにしても、腹筋を鍛えて
腹式呼吸する方が合ってる人もあるでしょうし、あるいは胸式呼吸の方が合う人もいるでしょう。演出も
衣装や音響を取り入れた方が素敵になる人もいれば、素のままで読むのが一番素敵な人もいるでしょう。
その辺りは手探りででも、自分に一番あった方法を探して下さい。
最初に書いたように、もしこれを読んで「朗読ってやってみようかなー」などと思って下さった方が
一人でもいらっしゃったら。そのことで詩の朗読シーンが少しでも活気づけば。心から嬉しいと思って
います。最後まで乱文をお読み下さいまして、ありがとうございました。