ヤギ

「よし、じゃあスモウを取ろう」

そう言うとそいつは泣いたままビックリした顔をしていたのですが、僕が強引に体育館へ引っ張ってゆくとスモウを取る決心をしたようでした。心の中がパンパンになって熱くなってしまっていたけれど雨のせいで体は少し冷えていて、準備体操に少し四股を踏みました。
どしん、どしん。
勝負をつけるとかそういうことではなかったです。

「おし、こい」

ばしん、とぶつかります。
そいつは体がすこぶる大きかったので一気に土俵際まで押されました。けれど僕も負けません。しっかりと腰を下ろしながらマワシの辺りをがっちりつかみ、力いっぱい押し返します。先ほどまでのそいつへの憎しみやら申し訳なさやらが湧き上がり、それがぎゅうぎゅうと力なって目一杯押しました。そこで一つ足をかけられて僕は思い切り転びました。

「もう一番」

ばしん、激しくぶつかります。
僕は悔しかったのです。僕は自分との約束を破ってしまったのです。だからこんなに悔しいのです。悔しくて悔しくて涙が出てきました。その悔しさがまた力になりました。それは相手も同じでした。どうしたら良いのか分からないこの叫びたいような気持ちを力にしてお互いに相手にぶつけていたのです。今度は僕が勝ちました。

「もう一番」

ばしん、もう力は入らなくなってきていましたが、それでも取らずにいられません。ばしん、ばしん、ばしん、何番も取って二人ともすっかり力が入らなくなると、汗と涙とで汚くなった顔で僕たちはどちらからともなく笑っていました。


散文(批評随筆小説等)Copyright ヤギ 2005-10-29 16:23:43
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