1)詩の朗読・初心者の覚え書きメモ/その1・・・上田假奈代さんに学ぶ
宮前のん
「どうして、書いてある詩をわざわざ声に出して朗読するんだろう?」
詩の朗読、ポエトリーリーディングと言われるイベントに幾つか参加した後、当然のように湧いて
きた疑問がこれでした。
もちろん、舞台上に立って観客に注目される快感とか、声を出すことによるストレス発散とか、
そういった副産物的効果は二の次にして、もっと本質的に、どうしてわざわざ印字してあるテキスト
を声に出して読む必要があるのか、その意味が知りたいと思いました。
丁度その時期、大阪の詩人上田假奈代さんのワークショップに参加している時期だったので、
講師である假奈代さんに直接聞いてみたんです。その時の答えがこれでした。
「言葉は同音異義語。同じ言葉でも人によって違うイメージを持ってるでしょ。
その輪郭を明確にするんが朗読と違うんかなあ。」
言葉を扱う人が皆知っていることですが、同じ言葉を使っているつもりでも、個人個人でその言葉の
意味やイメージは微妙に違います。それは、その言葉を学んだ状況やその時の感情・過去の体験や周囲
の環境に左右されるからだと思います。たとえば「コーヒー」という言葉を使う時、暖かい暖炉のそば
で愛する人と一緒に啜った甘いカフェオレを思い浮かべる人と、別れ話の時に氷ごとぶっかけたアイス
コーヒーを思い出す人とでは、心に浮かぶイメージが全く違ってきます。だからもし、自分の思っている
イメージを印刷のままのテキストで他人に伝えようと思えば、アスタリスクの注釈だらけになりかねない。
言葉がそれくらい、あやふやで不確かなコミュニケーション手段であることは、周知の通りだと思います。
もちろん、そのあやふやさを逆手にとって、あやふやなまま読者に投げてしまうというのも一つの方法
だと思います。読者が自分のイメージで勝手に読んじゃっても結構です、ということですね。詩集を販売
した時なんかは、実際そうするしかないと思います。でも、自分の持っているイメージを出来るだけ正確に
相手に伝えたい。詩人がそう思う場合だってあると思うのです。
次の章で詳しく申し上げますが、朗読をする際に重要な事の一つに「頭にイメージを思い浮かべ
てから朗読すると、相手に自分の言いたい事がよく伝わる」というのがあります。書いてある言葉を
声に載せるというのは、その声色に、声の大きさに、声の質に、自分のイメージが出る、ということ
なんだと私はその時理解しました。上田假奈代さんはそれを「輪郭を明確にする」という一言で表現しま
したが、まさにそれこそが朗読する意味なんだと思いました。
さて、これで詩を朗読する動機付けが出来ました(笑)。次からは技術的な部分を書きます。
●覚え書きメモ/その1:朗読は、自分の言葉のイメージの輪郭を明確にするために行う。
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【詩の朗読・初心者の覚え書きメモ】