キリギリス考
こたろう
アリとキリギリス。なんでキリギリスなんやろね。イソップの寓話は手元にはないが、ラ・フォンテーヌのものならある。でも仏語のものでは、アリとセミなのですよ。
LA CIGALE ET LA FOURMI
La Cigale, ayant chante
Tout l'Ete
Se trouva fort depourvue
Quand la Bise fut venue.
Pas un seul petit morceau
De mouche ou de vermisseau.
Elle alla crier famine
Chez la Fourmi sa voisine,
La priant de lui preter
Quelque grain pour subsister
Jusqu'a la saison nouvelle.
"Je vous paierai, lui dit-elle,
Avant l'Aout, foi d'animal,
Interet et principal."
La Fourmi n'est pas preteuse.
C'est la son moindre defaut.
"Que faisiez-vous au temps chaud ?
Dit-elle a cette emprunteuse.
- Nuit et jour a tout venant
Je chantais, ne vous deplaise.
- Vous chantiez ? j'en suis fort aise :
Eh bien ! dansez maintenant. "
たとえ途中まで見せるとしても、スペル間違いは許せない。そういう性分なんです。だから昨日の夜と今日の午前かけて、論文の見直ししたのです。章ごとに分けて書いた文書に通しでページ番号をふる。おお、第二章までで72ページある! なんかちょっと自己満足。
今日の午後、担当教官に持って行くつもり。お昼過ぎたのでプリントアウトしよう。そう思ってプリンターをつないで印刷!
「USBケーブルがうまく接続されていません」
おや。もう一度つなぎ直して、プリント!
「USBケーブルがうまく接続されていません」
…イヤな予感。我が下宿に第八の鬼門が開かれるか? ケーブルの先っぽをティッシュでこすり、プリンターとの接続を確認し、いったん電源なんかも切ったりして、さらにはソフトウェアの再インストールまでやって…
「USBケーブルがうまく接続されていません」
ケーブルがあかんのかな…? サンラザのfnacでケーブル買ってきてみよか…
夏のあいだに
歌ってばかりのセミさんは
木枯らしぴゅぅと吹く頃に
貯え尽きておりました。
ハエも小虫も
ひとかけらもありません。
隣のアリさん宅訪ね
空腹訴え、
新たな季節めぐるまで
生き延びれるよう種などを
貸してくおくれと頼みます。
セミさん曰く「次の八月来るまでに
動物の威信に懸けまして
利子までつけて払います。」
だけどアリさんしみったれ。
それがアリさん玉に瑕。
「暑いころに何してたん?」
アリさん、セミに聞きただす。
「日夜訪ねる皆のため
歌を歌っておりました。」
「歌っとったん? そりゃいいね。
ほんじゃ、今度は踊ってよ。」
新しいUSBケーブルをプリンターとおパソにつなぐ。論文のイントロを開いて、プリント!
「USBケーブルがうまく接続されていません」
嗚呼…(putain de merde) プリンターまで昇天なされたか…(ca me fait chier, ce truc) 第八の鬼門が開かれた! このとき、1時を回ったところ。担当教官が学生を見てくれるのが3時から5時のあいだ。fnacに急げば間に合うさ! おバカになったプリンターにとどめの一撃を加え(ちょっとこづいてやった!)再び出かける。いそげいそげ!
アリとキリギリスのお話、実はクノー先生がパロディにしてたりするのです。
LA FOURMI ET LA CIGALE
Une foumi fait l'ascension
d'une herbe flexible
elle ne se rend pas compte
de la difficulte de son entreprise
elle s'obstine la pauvrette
dans son dessein delirant
pour elle c'est un Everest
pour elle c'est un Mont Blanc
ce qui devait arriver arrive
elle choit patatratement
une cigale la recoit
dans ses bras bien gentiment
eh dit-elle point n'est la saison
des sports alpinistes
(vous ne vous etes pas fait mal j'espere ?)
et maintenant dansons dansons
une bourree ou la matchiche
買ってきたプリンターの梱包を解く。ちゃちゃっと手早く(僕のレベルで考えた手早さ)ケーブル類を取り付け、インクカートリッジを入れ、CD-ROMをマッキュくんに食べさせる! 時計をちらと見る。3時前。こた氏の口元に勝ち誇った笑みが浮かぶ。
マッキュの液晶画面に映ったアイコンをクリッククリック! でも……なんかおかしい。どこをどうやってもソフトのインストールが始まらない。
まさか、と思い箱をよく見てみれば…
「Only for Windows」
とどめの一撃。訳も分からぬままに形而上的目眩。ヴェルティージュ・メタフィジック!(あーはぁ?) その場にへたり込む。テーブルにぶつかりコップを倒し、水にまで濡れるこた氏。
アリさんえっほと山登り
しなった草に山登り
だけどアリさん分かっとらん
その試みの難しさ
あはれ、アリさん頑固もの
馬鹿げたプランにしがみつく
その草、アリにはエヴェレスト
その草、アリにはモン・ブラン
起こるべくして起きたこと
アリさんとすんと落っこちた
だけどセミさん受け止めた
優しく腕(かいな)で受け止めた
アルピニスムの季節には
早すぎじゃないか、お嬢さん
(お怪我がなければよいけれど)
それより一緒に踊りませんか
ブーレやマシーシェなんぞでも
サンラザfnacのプリンター売り場。購入時に接客してくれたにいちゃんがいた。「どしたの?」 いや、うちのパソ、マッキュなんだけど… 「ああ、これウィンドウズ用やもんな」 え、でも売り場のプライスカードとかにそんなこと記してなかったやん…(てか、はよ言えや、あんちゃん)「そしたら交換するわ。まずは外にでたとこにあるお客様サービスコーナーで返品してきてくれるか?」 プリンターの箱を抱えてえっほえっほと外に向かうこた氏。
ちょっと道に迷うも、無事にサービスコーナーに着く。扉をくぐり、愕然。人、人、人… 多いよ… 室内を見渡してみると、電光掲示板に「64」と数字が出てる。はぁ、整理券が必要なのね。整理券発行機から一枚引っぱり抜く。「87」。20人もいんの…?
一時間ほど待っただろうか。担当教官を訪ねることはすでに諦めたこた氏。電光板の数字は「77」。椅子が一つ空いたので座りに行く。ちらと壁を見ると、小さな貼り紙がある。
「15日以内にパソコン関係の品物をお買い求めのお客様はお待ちにならずにこちらへどうぞ」
もっと見えやすいところに貼れ…
「世界と君の戦いでは世界に味方してやるがいい」とはカフカの言葉。世界がドリフなコントを演じるなら、金盥を頭で受け止め続けるがいい。なんか、そんな気分になった。喜劇の腹の内で生きること、それが喜劇の恐ろしさ。人間の理性の、意志の、心情の、存在の、無意味さを暴きたてる喜劇。喜劇の内で、人間の意味はどんどん矮小になる。
そこまでオレを喜劇役者にしたてたいなら、やってやるぜ! 金盥を受け止め続けてやる! ここんとこ、ちょっと気持ちがアリ寄りだったけど、やっぱキリギリスだよな、オレ! 歌って踊って書いて喚く! 空から湧いて降ってきた金盥、これこそ笑劇のチャンスじゃないか! ひらひらりんと舞い踊りさっ!