Y/M
Monk




特に何もない。今日僕があなたに語るべきことは特に何もない。あ
なたに語るべきことが何もなくてとても残念だ。明日また語るべき
ことがあればそれは残念ではなくなるが、あなたがいったいいつど
こでこれを読んでいるのかはわからない。わからないがきっと残念
ではなくなるのだろう。


 ***


予定がたくさんつまっている。土曜日も日曜日も平日も、僕たちの
生活はたくさんの予定がつまっている。しなければならない事とし
たい事で溢れていて休む暇もない。君は「もっと時間があればいい
のに」と言いながら忙しそうに夕飯の準備をしている。僕は本当に
しなければならない事と本当にしたい事は何かについて一つ一つ消
去法を用いながら考え、カレンダーを横目にベッドで寝転がってい
る。どちらにせよ期間が限られていることについてお互いの認識は
一致していた。だからこそ僕たちは日々の予定を必死に消化し、十
分に堪能し、夜には感想を聞かせ合い、翌日にはもうその日の予定
のことで頭がいっぱいになったのだ。


 ***


今すぐに返してほしい、と君は要求する。しかし僕には返すことは
できない。すでにそれは使い込まれ消費されてしまった。もうこの
世の中には存在しないのだ。君は繰り返し返却を要求し、僕は繰り
返し返却不能であることを根強く説明する。
もうとっくに君が乗るはずだった列車の時刻は過ぎてしまった。君
は帰るはずだった場所のことを忘れてしまったのだろうか。僕は悩
んだ末にまったく同等とは言えないが新たに作り直すことを決意し、
そのことを君に告げる。君は今すぐに、と言い続ける。僕はその声
を聞きながらゆっくりと元の形を思いだし設計を始める。

僕らの立っていた駅舎はいつのまにか無人となり老朽化が進んでゆ
く。時間の流れと目の前の現象がまったく同期していない。


 ***


具体的には何もない。ただ僕たち二人が一緒にいるという事実が存
在し、その必然性を裏付けるような事実は存在していない。理由な
ど後からいくらでも考えられるものだ。僕たちはただ一緒にいる事
実が必要なのであり、その理由を必要とするのは僕たち二人以外の
誰かなのだ。僕がそう言うと、君は「そうね。わたしもあなたと同
じよ」と言った。

しかし事態は急変した。僕たちは一緒にいる理由が必要になった。
理由がなければ一緒にいることはできなくなってしまった。僕は必
死に理由を考えたがいざとなるとどの理由も僕たちにとって正しい
ものだとは思えなかった。僕にはよくわからない、と告げると君は
「そうね。わたしもあなたと同じよ」と言った。そして、そのまま
期限をむかえ、僕たちは別れた。理由がなければ一緒にいることは
できなくなってしまったからだ。


 ***


僕の物が壊れたので元に戻した。意外に簡単だ。もう一度今度はわ
ざと壊してまた元に戻した。やはり簡単だ。「君もやってみればい
いのに」と言うとそんなことまったく興味がないわと言って君は眠
る。
眠っている間に君の物を壊しておいた。そしてやっぱりやってごら
んよと言ったが君は興味がないばかりで触れようともしない。しか
たなく僕は君の物を元に戻そうとするがそれは僕の物とは違ってい
っこうに元に戻せない。君はずっと興味がないまま眠って起きる。
壊れてしまった君の物を僕だけが気にしながら大丈夫きっとと言い
続けていた。
最後には僕は僕の物を壊してしまい元に戻すことをしなかった。君
はそれにもやはり興味がなく君は僕と一緒に寝たいようだったが僕
はもうどうすることもできないと思い黙ってその部屋を出ていった。


 ***


夜中の間にほとんど埋めてしまうことができた。順調だ。順調に物
事が進むと気分がいい。雨が降らなくてよかった。多少の眠気はあ
るが出かける準備を始める。そういう気力がある。荷物も少ない。
残ったものは行きがけに金物店の裏にでも埋めてしまおう。
すでに冬は始まっている。しばらくすれば君は冬の休みに入るだろ
う。その間君が退屈することはないだろう。君はもっと手を汚すべ
きだ。土を掘り、残らず見つけることができたならつなぎ合わせて
みればいい。僕が興味を失ったものに君は興味をもてばいい。僕は
その場所にいないが君は興味をもてばいい。


 ***


君は毎日のように昨晩見た夢について僕に聞かせる。夢の内容は基
本的に同じで、よく知らない男と性交するという内容だ。日によっ
て体位が異なったり、合意であったり、無理矢理であったりするよ
うだが常に相手はよく知らない男だということは共通していた。君
は「これは何かセックスに関連することなのかしら?」と聞くので
僕はいつも「それはおそらくセックスに関連しているだろう」と答
える。すると君は「ごめんなさい。相手があなただったら問題ない
のに」と謝る。僕は「それが誰であっても問題はない」と答える。
僕は毎日のように君と性交する。夢の中に登場した様々な体位を試
し、時には優しく、時には強引に君の身体を抱く。君は十分にオル
ガスムスに達することができたし、僕は問題なく射精をした。これ
ほど満足のいく性交を重ねられることは極めて希で、とても素敵な
ことに違いなかった。問題などまったくない、と僕は思った。


 ***


僕のものは僕のものだから君のものは君のものだ。僕の考えたこと
は僕のものだから君の考えたことは君のものだ。僕のものがほしけ
れば1つあげるから君のものも1つくれ。僕のものを君が持ってい
るのが、いい。君のものを僕が持っているのが、いい。だからいち
いちこんな面倒なことをしている。




散文(批評随筆小説等) Y/M Copyright Monk 2005-10-16 21:12:05
notebook Home 戻る  過去 未来