平熱の朝
はな 


あなたはよく熱を出して
自分できづかないでいるので
いつも僕は
こっそりとあなたのひたいをひやす
あなたがきづかないままで
また 
まっしろな
あのベランダに 立てるように


ねむっているあなたのひたいの汗を
僕はそっと
てのひらでぬぐった
浅い呼吸のすきまから
わずかにもれる あなたの声が
僕にのしかかってきて
ももいろのくちびるをゆっくりと塞ぐ

朝に


体を起こし
たおるにくるまったまま
僕の作った朝食を しずかにたべている
そろそろしごとにいかなきゃ
と言うあなたを
僕はすこしだけ止めるけれど
ゆるやかな糸をぴいんと張ったような
あなたの表情に
ああ またきづいていない と知って

あなたはスカーフを肩にかけて
さむそうにでかけていった
僕はほほえんであなたをみおくり
ぱたん としずかに閉まったドアを
いつまでも見ていた



ひたいに手をあてて天井を見ていると
むかしのことばかりおもいだす
むかしのこと
もうずいぶんまえにまちがえた
何かを追いかけている僕



よる
あなたは疲れた顔で帰ってきて
何も言わずに僕を抱きしめる
その体は
朝よりも深く 燃えていて
僕は少し泣きそうな気持ちになる
あなたは僕からすこしはなれて
僕の顔をまっすぐに見ると
ももいろのくちびるで つづきそうな僕の文句を塞いだ



育ってゆくベランダのみどりは
くすぐったいように
春を揺り起こしては
ときおりとおる冷たさを 押し隠す



僕はひとつになりたくて
いつもあなたを
抱きしめるたびころしてしまう
そうして熱を帯びながら
声もださないあなたの
声を最後にきいたのは
もう おもいだせないほどむかしのことで
せめてねむっているうちに
あなたのひたいを何度もぬぐって
あなたをてばなしてゆく






あなたの呼吸がらくになったら
僕ももう一度


胸いっぱいの
しんこきゅう を



未詩・独白 平熱の朝 Copyright はな  2005-09-26 01:20:07
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