草の下に埋もれた鳩
服部 剛

草よ、伸びよ
我が胸の内に
人々の胸の内に
その幾人もの胸の土壌に

根よ、根よ、根よ、

張りめぐらされよ・・・!

人と人を結ぶえにしの糸が
誰かに手を差しのべる
渇いた病者の腕で闇に伸びるように

( 見上げれば あまりにあおい空の上にはいつも
  一艘の雲の箱舟が浮かび
  乗っている全ての友は伸びやかな草となり
  風に揺れてしなる身に日の光を映し
  肩を並べて唄っている )

休日の昼下がり
目覚めると公園のベンチに横たわっていた

うたた寝の内に夢を見ていたようだ

身を起こすと
白球を包んだグローブを抱えて
夕暮れの公園を出て行った父と子を
選挙演説の車が
正義の声を街並みに響かせて
窓からは偽りの白い手袋の手を振りながら
ゆっくりと 追い越してゆく

背後には取り残された独りの老婆
杖をつきとぼとぼと歩いている

ベンチの裏の雑草に埋もれて
平和はすでに腐っていた

首はちぎれかけたまま棄てられて
赤い血糊から隠れた異臭を放つ
一羽の鳩の死骸のように 



自由詩 草の下に埋もれた鳩 Copyright 服部 剛 2005-09-06 20:13:19
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