こんな詩を書きたいと思った
白糸雅樹

 幼い我が子に虐待を繰り返し、死に至らしめてしまう父親の一人称の詩を書きたいと思った。その父親自身が過去に受けた(かもしれない)虐待の話は書かず、でも徹頭徹尾主観で、どうして自分が虐待をしてしまうのかも、どうして周りがいつも自分を虐待に追いこむかのように理不尽に責めたててくるかも判らず苛立つ男の話を書きたいと思った。

なるべくぐじぐじと、具体的に。言葉にならないどろどろを塗りたくるように。でもうまくできない。

 どうしてもなついてくれない子ども。なついてくれればかわいがる気はあるのにと思うのだが、いつも自分にさからい、隅でいじけているような我が子。物心がついてから引き取ったのがいけないのだろうか。だけどそれは事情があったのだし、引き取った当初はちゃんとかわいがろうとアイスクリームも買ってやったし動物園だって行ったのに、嬉しがるどころかむっつりしていた子ども。

 卑屈におどおどと母親にも父親にもなつかない、鬼っ子。そして、ヒステリーを起こす妻。最近保育園の保母だの児童相談所職員だのと世間知らずの癖に偉そうにお説教を繰り返す他人までがずかずかと家庭に入り込んでくる。

 俺がつくりたいのは温かい家庭なのに。なんでみんなじゃまばかりして、他人までが邪魔するためだけに関わってこようとするんだ。俺の家庭だ。邪魔するな。

 明日は家にいろだと? 家庭訪問だと? 俺の子を俺の家庭から引き離して施設に入れろだと?

 ほっといてくれ!

 ああ、また飯を残してぐずぐずと。早く食え! 食わせてやると言っているんだぞ!

 こいつさえ保育園で俺の悪口を言わなければ、こんな面倒なことにはならなかったんだ。こいつが家族の悪口を言って虐待児づらなんかしやがるから、虐待防止法だのなんだのと変な法律がはやるから、なんの問題もない俺の家庭までおかしくなったんだ。

 こいつさえまともな子どもらしくしていてくれれば。

 ああ、明日がめんどくさい。他人に偉そうに説教されて口出しされて、で、俺の家庭なのに俺には何も言わせないんだろ? ぶっ壊そうとするんだろ? こいつさえまともにしていてくれればこんなことにならなかったのに。

 ・・・・とまぁこんな内容の詩を書きたかったのだが、うまく書けなかった。具体的な些細な出来事をつくりあげることができない。気持ちの吐露が、既成の観念で作り上げた嘘でしかない。私の中にも毒はある筈なのだが、うまく吐けない。

 これは、http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=39092で紹介した、児童相談所職員が家庭訪問を予約していた前日に、継父が四歳児を床に投げつけて死に至らしめたという記事を読んで浮かんだものだ。どうも私は嫌な気持ちを書くのが苦手だ。妄想力も詩人としては弱すぎる。ならばきっかけを作ったという罪悪感に駆られる児童相談所職員の視点なら書けるかと思ったが、これは偽善臭がしてやはりうまくいかなかった。

 なので、類型で作品には纏まらなかったが、やはり父親の視点でのプロットのみ、こうして書いて公開しておこうと思う。

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注:この書かれなかった詩は、実際に起きた事件の記事をきっかけにして思いついたものですが、細部はあくまで虐待に関する他の記事、本や、私自身の想像によるもので、父親の気持ちや事件のきっかけなどは、実際におきた事件と、私のこの詩の未定稿とはなんら関わりがないことを明記しておきます。書くまでもなく自明のことなのですが、やはり実際の事件に関わった方や、この事件でなくても虐待に関わった方の気持ちや事件の原因、きっかけを他人が「こうである」と書いてはいけないと思うので、少しでもそのような誤解を生じさせるような余地を残してはいけないと思うので。

                             2005/08/19



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