愛のソネット
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ブラジャーの中で乳房が笑っているので、おい静かにしろよと注意すると乳房はよけいに笑ってあら私注意されるすじあいなんかこれっぽっちもないのよ笑わせないで、などとぬかすのでこの女は脱がしにくいや。

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お月さまにふたりのあいを誓うの明日になったらお日さまに誓うのねえそうしたら永遠よ永遠だわ、お星さまじゃ駄目なのかい、だってお星さまはいっぱいあるから私いつかふたりのあいを見失ってしまいそうで。

かん高い金属音で交尾をしているかぶとむしをひやかしてみてもむなしいだけだわ奴ら快感の信号も出ていないのだわ顔を赤らめることもしらないのだわ私も明日かぶとむしになればいいのに、ねえ、キスしてよ。

全部捨てて来ました自分不器用っスからいろいろまんべんなく出来ない男っスから裸のそのままの自分みてほしいんス自分しゃべるのも苦手で上手に気持ち伝えたり出来ない男っスから、って、全裸で来ないでよ。

擬音語でしか愛を表現できない人と擬態語でしか愛を表現できない人とがいま出会い恋に落ち手をつないで歩きはじめる、ふたりの背中には夕日、ゆうやけの中ふたり笑いながらきらきらと笑いながら歩いてゆく、


自由詩 愛のソネット Copyright 投稿者 2005-08-22 02:27:13
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