声をかける
岡部淳太郎

少しずつ
深くなる季節に声をかける
前髪の長さが視界をさえぎる頃
君は青のように濡れるだろう
それは特に悪いことではないのだが
誰もが出立している そのさなか
僕は君に声をかける

少しずつ
狭くなる道に声をかける
汚れた爪の先がさらに汚れを増す頃
君は青とともに濡れるだろう
それは特に不幸なことではないのだが
誰もが何かを決め始めている そのさなか
僕は君に声をかける

少しずつ
世界は少しずつ回り
生も死も
少しずつ進行してゆく
急激にではないのだ 君よ
焚火の薪は少しずつ煙になり
地下の芽は少しずつ成長する
歌が少しずつ降ってくるのと同じように
少しずつ
僕は君に声をかける

少しずつ
さらわれてゆく砂に声をかける
思春期の寝床で足首が痛む頃
君は青として濡れるだろう
それは特別なことではないのだが
誰もが楽な姿勢でくつろいでいる そのさなか
僕は君に声をかける

少しずつ
声をかける
君の青のままの姿に
少しずつ
声をかける
青いだけの海は
水平線の向こうで黙っている
それでもいい
少しずつで いい
僕は君に声をかける



(二〇〇五年八月)


自由詩 声をかける Copyright 岡部淳太郎 2005-08-03 23:20:31
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