ささやくようにはいりこんだ季節は
坂の向こうで風をふくみ

かがやいている



いつも背中に手をふれ
たしかめながら
もうずいぶん歩いて　
彼女の手には　ひまわりが一輪咲いた
それは
そっと彼女の手をはなれて
しずかに根を張った


ふかい午後
ねこたちは絵の中の裸婦みたいに
つまさきをそろえて眠った
彼女はその停車場で
むらさきのバスに乗った
あっさりとしたしゃつを着た運転手は
若い顔をぼうしでそっと　隠した

はしりだす合図
彼女の背には
ぴんと立つ一輪のひまわり

ひとりになってはじめて
たいようのばしょをさがす




うまれたとき
まだ　つばさがあったとして
ずいぶん長く忘れていた　ほんのちいさなこと




彼女がめざしたのは
夏の向こう
そのさきはまだ　見えないけれど

運転手はちいさく微笑んで
すこしずつ
加速させてゆく


おかえり、


むらさきのバスは
長い坂に　さしかかる