音楽



「すべての武器を楽器に」

プラカードを掲げ、楽器を打ち鳴らしながら歩く男女のグループ
はしゃぎながら笑みを絶やさず、カレシらしき男に唇をおもねる女
皆おそらく学生ばかりなのだろう、サークルコンパのノリで叫びながら
傍目には、
歩行者天国で繰り広げられる大道芸のほうが、遥かに崇高に思えた
武器が楽器に替わった世界で、彼等は何がしたいんだろう
アフガンやイスラエルやバクダッドの枯れた大地に
響き渡る太鼓の音を、耳で聴いたことがあるのだろうか

茶の間で垣間見る風景、我々は惨事を惨事としか見られない
あらゆる事件は映像に始まり映像で終わる
誰ひとりとして耳を傾けずに
ただ、目を疑う

「こんなことがあっても良いのだろうか」


楽器は武器になることが出来たけれど
武器が楽器になる為には、その務めを全うしなければいけない
女は鎮魂の為に喉を楽器へと替え
奏者は皆、次々に銃を手に戦地へと赴いた


「すべての武器を楽器に」

鳴り止まない銃声はメトロノームよりも速い振れで空に木霊した
いくつもの重なり合いと戦車の砲撃音が見事な音調を形作った
大地をえぐる怒轟が舞台の臨場感を煽るアクセントとして吠え上がる
阿鼻叫喚の様々な音階が世界を殊更にリアルに描き出す

「すべての武器が楽器に」


運命、胡桃割り人形、華麗なる大円舞曲
どんな楽曲を当てはめても、何ら遜色の無いモノクロームの舞台
すべてのコマは、効果音無しのスローモーションで流れ出す
ひとしきりの演奏の最後
スタッフロールに合わせて翻る星条旗と、兵士の胸に
ひとつの国歌だけが
唯一の音楽として、その場に許された

「すべての武器は楽器に」


9.11 グラウンド・ゼロ
ヒロシマにしか許されない筈の、その言葉を大々的に喧伝しながら
繰り返す慰霊と黙祷、そして繰り返される、掃討
ツインタワー跡地で涙に暮れる母親の姿

「こんなことがあっても良いのだろうか」


爆薬を赤子よりも大切に抱き締めながらマイクロバスに跳び込む姿を
テロリズムは悪だ、誰かあいつらを止めて、殺して!
CNNの画面に向かって、叫ぶ女性のヒステリックに歪んだ眉間


「すべての武器を楽器に」


今、彼女に流れているのはどんな曲なのだろう
プラカード片手に行進を続けていた、日本の若者の曲は似合うだろうか
あの瞬間、マイクロバスに跳び込んだ女性には、どのような曲が
どの程度のボリュームで、流れていたのだろうか


「すべての武器が楽器に」


我々には、ただ悲観することしか出来ないのだろうか
今日もニュースを目で追いながら、耳を塞いでばかりの雑踏が
赤信号を、ほんの少しフライングするタイミングで響く
フライングするタイミングで、
響く、

誰も、
立ち止まること無く、
街頭に流れる一行のニュース速報のテロップ
昨夜未明、バクダッドで(中略)人のアメリカ兵が死亡しました。
明日の関東地方全域の天気は・・・


・・・もうどこにも、あの日の若者を見つけることは出来なかった
あちこちから聴こえる曲は、携帯の着メロばかりで
ふいに、その中の一曲が耳に残った
中島美嘉/雪の華
どうしても、サビの部分しか思い出せないでいる




「すべての武器を楽器に」




・・・もう、彼等の表情さえ記憶に残っては居ないのと
同じ 同じなんだ
こんなことがあった、只それだけの記憶

Aメロも、Bメロも、きっとずっと思い出せないだろうけれど
カラオケで、歌詞を目で追いながら
なんとなく歌えてしまうから
誰も困らない



そして僕は、時たま思いついたように
世界中の武器が楽器になっちゃえばいいのになぁ、なんて
無責任に
呟いてみたりもする




自由詩 音楽 Copyright  2003-12-13 17:05:26
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