死診
恋月 ぴの

N大学病院の暗い廊下
名前を呼ばれるまで
俺は硬いベンチにじっと座る
ある種の臭いが辺りに漂う
無意味な延命治療を施された
患者が発する死の臭いか
それとも
薬漬けになった患者が吐き出す
プラズマのような薬品臭か

「鈴木さん診察室へどうぞ」
「鈴木」って言う名は俺の名か?
廊下にもまして暗い診察室に入ると
若い看護士に促されるまま
白いシーツにくるまれた
寝台に俺は横たわる
ついに
俺は運ばれるのか冥土の果てに
それとも
医師の生暖かい手ざわりが
俺の脳みそをかき混ぜて
俺を他の「鈴木さん」として
蘇生させようと言うのか

俺が名前を呼ばれた「鈴木」で無いならば
未だ診察の順番を迎えていない訳で
忙しそうに行き交う看護士を
ぼんやりと眺めては
欠伸をひとつふたつと数え
何時の間にか手渡された
石鹸を握り締める


未詩・独白 死診 Copyright 恋月 ぴの 2005-07-03 00:49:11
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