しらやまさんのこと(4)
AB(なかほど)

  

卒園式ではいつも以上に
園長先生のお話 長いね
と うちの子供が気にかかる
寝てはいないか
ちょっかい出してはいないか
そんな心配もなんのその
みんなちんまりと神妙な面もちで

ときどき奇声を発する子を
とても優しいお母さんがふんわりと
けっしてぎゅっとではなく
ふんわりと

その中でR君は何を思っているんだろう
知らない世界を旅しているようで
窓の向こうの山々は
そろそろ緑支度をはじめるけど
そのまた向こうの白山さんは
五月までは白いままで
ときどきそっちの方を向いてRくんは

おおう

と声を発する
彼の世界は
あそこにも繋がっているのだろう

さてさて
わが子のクラスは
どうしてそんなに神妙な顔をしていたのか
と思ったら

Rくん ぼくたちはみんな
Rくんの わらったかおが
だいすき 
だよ

と特別ではない特別な言葉を
R君に送るためだったようで
そんなときに限って
Rくんは何も言わない
しばらくして
また何ごともなかったように
いくつもの世界に遊びに行ってしまう

そんな子が同じクラスにいたこと
何年も知らなかったとは
パパとしては情けないよな
と思った帰り道で

まんなかぐみさんまで
Rくんはずっと とじこもっとったけど
おおきいぐみになってからは
いっしょにあそんだげん

でも しょうがっこうは
ちがうげん

という息子は
もう用事のなくなってしまった
園を降りかえる
その向こうには
いつもより輝く白山さん


特別ではない特別なこと
みんな小さい胸を痛めながら
大きくなっていくんだろうか

どこからともなく
高い声が聞こえてきた

Rくん またわらっとる

という息子と一緒に
涙をぬぐった



   


未詩・独白 しらやまさんのこと(4) Copyright AB(なかほど) 2005-06-25 17:23:04
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
しらやまさんのこと