万置師
大覚アキラ
で? なにが聞きたいワケ? なんでも聞いて。時間はいっぱいあるから。暇なんだわ、最近。……万置がどういう仕事かって? そこから説明しなきゃダメなの? インタビュアーのくせに、なんにも知らないんだねぇ、アンタ(笑)。
なんつーかね、そのぉ……万引ってあるでしょ。アンタもガキの頃やんなかった? え? やってない? めずらしいね〜アンタ。
アタシらの仕事はね、要するにその万引の反対。置いてくるの、品物を。
例えば、一度解凍してもう一回凍らせた冷凍食品とか、賞味期限の切れたジュースとかね。ジュースなんかアレよ、普通見ないでしょ、わざわざ缶の底の賞味期限なんかさぁ。で、買って帰ったお客が文句言うワケよ。「オタクんとこで買ったナニナニが腐ってた!」とかね。たまに、食べても腐ってんのに気づかないヒトもいるみたいだけどねぇ(笑)。
アタシは主に食品関係中心で昔からやってるけど、書籍中心の万置師とか、衣料品中心の万置師もいるんだわ。みんなそれぞれに独自の技を持っててね、アタシも一時は「ドンデンのマサ」なんて呼ばれてたこともあったんだわ(笑)。「ドンデン」ってのは、棚に並んでる品物を一列全部入れ換えちゃうことなんだけど、アタシはそれが得意でねぇ。
まぁ、結局アレよ、ライバルのスーパーとかデパートとかの評判落として潰しちゃうっていう目的で雇われるわけ、アタシらは。アタシらの仕事が一番活気づいてたのは、アレよ、バブルのちょっと後かな。バカみたいに宣伝にお金使ってたのが全然ムダだったってことに、企業も気づいたんじゃない? 自分とこの品物売るのに大金使うより、ヨソのお店を潰しちゃうほうがお手軽だってことだね。
アタシは今も昔もフリーでやってるけど、あの頃は万置師のチームみたいなのがあってね。少ないとこで5人ぐらい、多いとこは20人ぐらいの万置師がいたね。そういうチームが日本中に50ぐらいはあったんじゃないかねぇ……。
最近はダメ。どこの企業もいい子ぶっちゃって、なかなかお声が掛からないね、まったく。昔は仕事断るのも大変なほど忙しかったんだけどねぇ。そんな調子だからさ、ずいぶん減っちゃったよ、この世界の人間も。アタシもそろそろ足洗おうかな〜なんて、気弱になっちゃうこともあるんだわ、この歳になると……。