傾いた背中の青年
服部 剛

朝の駅の構内で
改札の向こうからホームの階段を上る
黒い制服の青年が障害を背負う体を傾けて
こちらに向かって歩いて来る

眼鏡の奥の瞳には
いつも光を宿らせて
不器用な歩幅を
一歩 また 一歩 と前へ進めてゆく

今朝の重荷にうつむいて
床に落ちたちぎれた切符や
つぶれた煙草ばかりが視界に入る

改札口を横切り
出口の階段へと向かいながら
彼の瞳の光を思うと
「何をうつむいているのか」と
小さい嘆きを胸につぶや

振り返ると
「あ」っという間に
遠い人ごみに消えてゆく
傾いた彼の黒くにじんだ背中

向き直り 顔を上げて 前を見る

いつもと変わりばえのない
まばらな出勤者たちの行き交う空間の
向こうに伸びる薄汚れた床には
ほのかな光があちらこちらに浮かんでおり
下りの階段に示された
矢印の方向に引かれるように
くたびれたズボンの中で
光を帯び始めた足を
一歩 また 一歩 と前へ進めてゆく

駅の構内を出ると
外にはただ
あまりに広い 今日の日の青い空 








自由詩 傾いた背中の青年 Copyright 服部 剛 2005-06-06 19:58:52
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