始発に乗って母は田舎に帰る
ベンジャミン

母さん僕は
あなたの子供であることを何度
嫌味っぽく言ったかしれない

似ていると感じるほどに
それを振り払うような喧嘩を何度
繰り返したかしれない



そんな母が
「田舎に帰るから駅まで送ってくれ」
と、言うので
まだ明けきらぬ朝もやの中を
車で駅まで送ってあげた
その途中
母はしきりに
婆ちゃんに会うのを怖がっていた
婆ちゃんにとっては
自分はいつまでたっても子供だから
婆ちゃんに会うと怒られそうで怖いと

母が田舎に帰るときは
いつも始発だ

母の旅行かばんの中には
婆ちゃんの好きな食べ物と
婆ちゃんの好きな孫の写真と
婆ちゃんの好きなひ孫の写真が入っている

駅につくと
母はいそいそと切符を買って
ホームの中に消えていった
その寸前まで
婆ちゃんに会うのを怖がりながら



母が婆ちゃんを怖がる理由を
他にも聞いたことがある

自分と似ているからだと

電車に揺られ
母は何を思いながら田舎へ帰るのだろう

呼び起こされる記憶があるとして
その記憶の中でなくとも
確かに自分が婆ちゃんの子供であることを
とくに意識なんてしなくとも

懐かしい景色が見えてくれば

母は母ではなく
婆ちゃんの子供にかえるのだと

遠ざかる電車を見送りながら

僕は自分が
そんな母の子供であることを思い出す

      


未詩・独白 始発に乗って母は田舎に帰る Copyright ベンジャミン 2005-05-31 00:29:13
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
タイトル長いー詩