与謝野晶子が怖い
室町 礼

たとえば与謝野晶子の歌など。
──どうもごつい。骨太の大きなごつい手
で書かれたようにみえる。「女性の恋愛や
情熱を率直に表現したことで当時の文壇に
衝撃を与えた」(wiki)のは事実かもしれ
ないけれど、ではその歌から女性的なやわ
らかさを感じるかというとそうではなく
「中の人」は意気軒昂な鳶職のあんちゃん
のような感じがするのです。彼女の歌、わ
たしには女性の歌とは思えない。
わたしなら与謝野晶子のようなのが近づい
てきたら逃げます。一目散に逃げます。
ぎゃ~あ、ヒゲヅラの為五郎が追いかけて
くるうう。

って短歌は上手いかもしれないけど、「中
の人」が大柄な熊五郎おやじの人とのんび
り恋酒など飲めますか?
おまえみたいなクズに与謝野晶子が近づく
わけねえだろと仰るでしょうけど、こうい
う女性は女性的なクズ男が好きなんです。
与謝野鉄幹なんかもうどうしょうもない最
悪のクズ男ですよね。いまでいうヒモなん
ですが女学校の教師時代に教え子を孕ませ
て手を切ることを条件にその女性徒の親か
らカネをふんだくっている。一見男の中の
男という威勢のいい歌をつくるが、
けど「中の人」は女性、それもねちねちと
した小さな「女性」のようにみえるのです。
卑劣なことに鉄幹は『明星』立ち上げの資
金集めのため妊娠事件のあとずいぶんたって
いるのにこの女性を呼び出し再びカネを巻
き上げている。
卑劣かどうかそれは外部の人間が云々でき
ることではないとしても、わたしの個人的
な経験や体験からいえば「中の人」が女性
の方はこんな男には惚れません。
与謝野晶子の「中の人」がおっさんだった
から「中の人」が女の鉄幹に惚れることが
出来たのじゃなかろうかと推察しています。

  やは肌のあつき血汐にふれも見で
  さびしからずや道を説く君

これはおっさんの感性です。わたしはちっ
とも女ごころの歌とは思えない。才能の問
題じゃないのです。二千年培われた人間の
歴史が女性性というものを作り出したのだ
とするならばこの女性性というものは身体
的な性にそっくり同じ性として上乗りして
いるわけじゃなくて、違和感なくそのまま
身体的な男性にも乗っかっているし、また
男性性も女性の中に違和感なく収まってい
るということがいえると思うのです。
このあたりはLGBTQの考え方とは違って
そこに齟齬や苦しみはないわけです。
無自覚ですから。
ということは生理的身体とは別の男性性や
女性性というのは意識の問題ではなく二千
年の人間の営みの結果生じた自然性である
といえるのじゃないかと思っています。
ですからね、むかし文芸坐という有名な映
画館が池袋にありましていつも深夜遅くま
で三本立ての名作を上映していました。
そこを最終上映の後出ると0時近いのです
が必ずけばい化粧をした「おかま」ちゃん
が立って帰り客に声をかける。
そのおかまちゃんにあるとき、向こうから
やってきた拓大だか国士舘だか忘れました
がいかつい集団が急に酔いを忘れて全員直
立すると或るおかまちゃんに向かって
「失礼します!先輩」と頭を下げるわけで
す。
するとそのスカートを履いて金髪のかつら
をしたおかまちゃんが
「おう、元気でやってるか」と地声のすげ
えドスの効いた低音で答えるわけです。
この落差、一体何なのだとわたしなんか思
うけどそこには彼ら彼女にはなんの差異も
ないようなんですね。
それを知らないでわたし一度おかまちゃん
に横柄な口をきいてボクシングだから空手
だかの達人においかけられたことあります。
女の格好するなら女であってほしいのです
けどね。

この「中の人」問題を考えてみると三島由紀
夫なんかの「中の人」は女性だったんだろ
うなと想像できます。
それから太宰治。この方の「中の人」は髭
面の大男だったんじゃないでしょうか。
繊細な人間性を見せていますが、わたしの
見立てでは「殺されても死なない」タイプ
で、心中や自殺などありえない人です。
確かに一度目の心中騒動がありましたが、
これを最後に彼はどんなことがあっても生
きると心に決めていたように思うのです。
玉川心中はあれ、足を滑らせて疎水に落下
したのですよ。ええ、間違いなくあれは大
宰のミスです。
自殺でも心中でもありません。
あの辺りはホタルの名所です。しかも6月
といえばホタルのシーズが去った直後、酔
った大宰はまだいるぞとでもいって山崎富
栄を誘いだしたのでしょう。
う~ん、ここまで書いて最初に書こうと考
えていた、自分では結構面白いと思ってい
たことを忘れてしまいました。
あそうだ、与謝野晶子は晩年じぶんの息子
をがんばってお国に奉仕するのですよとい
って送り出していますが、
その頃の写真をはじめてみまして、ああ、
やっぱり怖いと思いました。
追いかけられなくても下駄を履いて逃げま
す。






散文(批評随筆小説等) 与謝野晶子が怖い Copyright 室町 礼 2025-07-05 14:27:34
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