嘘みたいな夜
秋葉竹

『リストカットを
したこともないのが
恥ずかしい』

と彼女は泣く

眠ればすべてを忘れてしまえるから
ただ眠りたいんだ
《敏感な》心が折れちまってるんだと
彼女は照れながら笑う

陽気になる薬のおかげで
いろいろあって楽しいけどね
なにをするべきかがわからないままだなんて
なんて優しいミステリアスな嘘なんだと想う


あなたに
秘密をひとつ教えてあげよう。

なににも耐えられない無力な弱さを
保ちつづけられることだけが
いつもヘラヘラ笑っていられる
秘密の魔法さ
あなたにだけ教えてあげる秘密だよ?

どこにもいない人を探して
夜の砂浜を月あかりを頼りに歩く
白い砂ばかりをふみしめつづけながら


あたしは
勇気よりも偉大な心を知らないかな。


泣いてたのはじつはあたしのほう、

リストカットをしたこともないのが
恥ずかしいと泣く彼女は
下を向いて舌を出して世界を小馬鹿にしてる
その気持ちがあまりに痛くて
そのみっともなさがあたしにとって痛くて
嘘みたいにあたしの心が
痛くて辛くて
苦しくて


そんな
嘘みたいな涙って、ホントにあるんだな。

彼女の名前を口の中で呟きながら
嘘泣きしている彼女をみおろしながら
泣いていたのは
じつはあたしのほうだったって驚いた
涙の嘘みたいな
夜だった








自由詩 嘘みたいな夜 Copyright 秋葉竹 2025-07-04 07:15:29
notebook Home