帰巣
群青透夜
水蒸気は雨となり、
川となって、海へ注ぐ。
水の輪廻、
冷然と営まれる、
逃れられない、
世界の宿命。
疾走する絶望、
耳を劈く静寂、
宙ぶらりんの未来、
あまねく平凡な日常、
殊に触れて沁みる、やさしさ、
恋の終わり。
何もかもを飲み込んで、
世界は、切々と回ってゆく。
未来の終わりの、夢のはじまり。
幸福という名のレールが敷かれる。
これっぽっちの。
空が落ちる。
終末の幻影、
どん詰まりの交差路。
過去を切り離して、
未来だけで、生きられたら。
まだ世迷い言。
もどかしい鮮烈さで、
ひとり旅の迷い子も、
君となら抱きかかえよう。
仔羊の群れ、
もう一度ふたりして、
孤独を孕みたい。
檻の中の表層。
絶望はみんなのもの、
それで、良いんだ。
ずっと、淋しかった。
共鳴する涙の夜、
過ちの連鎖を打ち付ける。
破砕と劣情、
断絶された囲い、
無数の傷に悲鳴を上げても、
永久機関、君にしか屈しない。
戦い抜いて、
でも、勝てなかった。
知っていたよ。
それなのに、
瞬きをする合間にも、
この世界の淵源は、
罪深く血で染まり、
一面の無辜の民が、
綿埃のようにあるいは蚤のように、
浚われ潰えてゆく。
判り切っていたけれど、
僕は木偶の坊に過ぎなくて、
歯を食い縛るより他無い。
みんな、もっと苦しかったんだ。
ごめんよ。
ザブン、ザブン。
波打ち際。
月灯りに照らされて、
どす黒いうねりが、
腹底で悶える、
大きな絛虫のようにも見えて、
足下が竦む、
まるで幼子のような僕。
ザブン、ザブン。
見透かされた。
逃げ帰る。
巣篭もりでもしよう、
そう思った。
暁闇。
ひと欠片の漆黒。
人がまた生き直すために、
欠かせない刹那。
たとえ赦されなくとも、
人は生きねばならないから、
死ねない限り。
斜度の緩やかな光線、
世界の色が変わる瞬間。
連綿と繰り返されてきた、
闇底からのスイッチ。
カタカタと窓を開けると、
蒸れた風とともに、
君の笑顔を、
やっと思い出せた。
今朝は、軽みのある空。
世界よ、おはよう。
そろそろ、
前へ進もうか。