一丁目の交差点で
大町綾音

一丁目の交差点で、
君が立ち止まって、
ヘーゼルのケーキを買っている時
時は巻き戻されて、
君の額の薄い部分で、
頭痛のように少しくぐもった。

そよ風が、
音もなく、
アルペジオのように、
分散されてささやけば
君がこんどは風になり、
すべてとなって溶けていく。

君は許されるのか、
そのゆくえを見守っていた、
それはまるでピアノのよう、
だったのに、誰も
そのことを思い出せないかのよう
ただポスターのよう。

海にはイルカ、
山にはカモシカ、
土地には人
月にはゆうれい、
それぞれの場所でそれぞれの声……
反射が、切実でいやだった。

君は救われるのか?
そろそろだ、そう、そろそろだと
何気ない、つまらない、
ただのキッチンタイマー、
りりりんと鳴る。
舞台の戯曲のようホント台本通り

君は風になって過ぎてゆく
誰も止めない
誰も泣かない
誰も救わない
誰も後悔しない、
誰もためらわない。

ソリチュードの海が、
エーテル的に個体化して、
ひとつとべつのひとつ、とが、
結ばれるときでも、君は未だ
たった一人、
もうヘーゼルは乾き始めてるの。

え? ピアノだったね?
ハープだったね?
誰も弾かないんだね?
君は楽器だったね?
僕も、楽器だったよ……
ギター、マリンバ、ドラム、鉄琴

君を救えない
君は救われない
君は救われたがらない、
だからこそ君を救いたい、
僕の声の声の声の声のとどかない
ありったけの地平まで君を救う。

二丁目の踏切で、
僕が立ち止まって、
君の思い出だけを首にかけてる時
時は単純に往復可能で、
でも、僕は知るすべもなく、
ただ虚ろに笑った、笑った。

君を救いたかった。
救いたかった
救いたかった
だから、自己解決の形と呪って、
僕は夜の奥に答えを求めた……。
君がいない。そして、僕がいない

だから、未だ。
君は、未だ。
風になって過ぎてゆく、
誰も止めない
誰も泣かない。
ても救われる、きっと。

億の風になって、
声が、溶けていった、
君が、スフレのように溶けていった。
ポットには、熱い紅茶、誰も飲まない
新しい始まりに、ひとつ……一滴と、
そっとたぐる。君の新しい命に、


自由詩 一丁目の交差点で Copyright 大町綾音 2025-06-02 04:33:24
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