われら現代ニホン人の肖像
室町 礼

もうセイシンは隅々に残っていない
びた一文、かすりもしない
一筆書きの短い眉がふたつ
戦場のように廃れはてた顔面を二つに
引き裂かんばかりに離れて
てん   てん
脂肪の表面を剃刀でうすく切ったとたん
とび出たような黒目が
まるでメダカの稚魚の腹に書かれた
黒い天眼のように小さく
てん   てん
ひとつは斜め下を
ひとつは右横を見ている
鼻梁はもぐらのトンネルのように
太く短く
その下の鼻翼も鼻尖も鼻根も
ドランカーに
叩き潰された中華饅頭のように
膨れている
めくれあがった唇だけは
妙に生々しく猥褻なほどに赤く
今にもどろっとしたピンク色の器官が
ハエでもとるかのように
奥に隠れて身構えられている
それでも舌といえるのかどうか
詮議の外である
首は短く無いに等しい
頭がそのまま肩に埋没している
泣いているのか怒っているのか
疑っているのか謀んでいるのか
とにかく鬱血して
どす黒く赤い顔がこういって
歌っている
Only now, only money, only myself♪
もうセイシンは隅々に残っていない
びた一文、かすりもしない


※閲覧注意
自己責任でお願いします。
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自由詩 われら現代ニホン人の肖像 Copyright 室町 礼 2025-04-16 08:14:20
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