既存意識の全否定から始めては?
室町 礼

日本の財閥の勃興を江戸後期から現在までの
視野で描いた広瀬隆という方の『持丸長者』
という書物をネタにいろいろ書いてきたので
すが、この本、ひとつ欠点がありまして、
日本財閥生成の過程を江戸時代後期から解き
明かしているのですが国内にばかり目がいっ
て、世界という視点から当時の日本を見てい
ない。日本の政治というのは日本の政治じゃ
なく世界の中の日本の政治なんであって、日
本一国の内部ばかり見ていて日本の政治がわ
かるわけがない。ひとつの歯車の動きは成る
程ひとつの動きをしている。そのひとつの動
きをみる限りではどこまでもその動きを精緻
に分析できる。でもそれは全体のシステムの
なかから与えられた働きであって、
全体のなかでの役割や意味は全体からの役割
をみることからしかしか分析できない。
広瀬隆という方は『東京に原発を』という小
説を書いた方でもあるのですが、これは映画
化されまして非常に面白かったのですが、
このてのサヨクリベラル系の方に特有の世界
的な視点というものが欠けていました。
たとえば幕末の日本のGDPはいかほどだった
か?残念なことにそういう視点がが抜け落ち
ていました。

黒船が来航した1850年当時にはGDPという
概念はありませんでしたが考えてもみて下さ
い。南北戦争が終わって70年しかたたない米
国が産業を勃興させたとはいえ日本より人口
が少なく(米2,311万人 日本3,200万人)
また下水道や植林事業も行き届かなく広大な
国土を前にしてどれほどの経済成長が出来た
ものでしょうか。それに対して2000年近
くも国土を開墾し産業を育成し、欧州から最
新技術を導入してきた日本が国力や軍事力に
おいて米国にひけをとるものかどうか。
当時の世界主要国のGDPを経済史家のアンガ
ス・マディソン(Angus Maddison)などの
研究者が購買力平価(PPP)ベースで推計し
てますが、1850年代の主要欧州諸国と日本の
それを比較してみると、日本のGDPは英米仏
に続いて4番目になります。GDPだけではな
く世界一の識字率、世界一の下水道設備や世
界一の林業技術、灌漑用水技術をもっていた
日本の総合力を評価すると国力はドイツ、イ
タリア、ロシア、フランスより上だったので
す。国力とはその国の総合力という意味です。
フランスなんて日本の愚かなインテリは崇め
ていますが、当時のパリなんか平気で道端で
糞をする人たちであふれるようなとんでもな
い野蛮な国でした。いや、ほんと。
まあ、それはともかくとして、
つまり日本はもとから経済大国でした。
また文学や思想が2000年をかけて発達し
たゆえに倫理道徳も発達した国でもありまし
た。
従って黒船が来航したからといって小説や映
画のように慌てふためくようなことはなく、
実務担当責任者であった老中首座の林復斎
(はやしふくさい)は毅然としてペリーと渡
り合っています。
日本中がひっくり返るほどの大騒ぎなどとい
うのは大嘘で、幕府はオランダの情報網を通
じて半年前から米国の来航を予見しており、
よって米国に対する準備は万端だったわけで
す。残存する一次資料(『重訂御書籍来歴志』
など)をみる限りひとつも動じていません。

ところで米国特使ペリーの日本に対する通商
協定締結要求は他のアジア諸国には一切行わ
れておりません。前にもどこかで書きました
がアジア諸国のほとんどが欧州の列強によっ
て植民地支配されており、新参米国がそこに
割入ることがことはむつかしかったからです。
独立国でしかも世界トップレベルの国力をも
つ国である日本しか当時の米国の通商交渉の
相手がなかったのだといえます。
米は日本を世界の超大国のひとつであると認
めていました。
このことは後に米国がアジア全域の植民地支
配を終わらせるために第二次世界大戦を準備
する背景にもなっています。
太平洋戦争が起きた1940年代といえばペリー
が来航して90年が経っていますが欧米による
アジアの植民地支配はまったく変わっており
ませんでした。
その一方で米国の生産力は鉄道網の発達とと
もに飛躍的に増大して、生産力は爆発的に伸
びて在庫が山積みになるばかりですから世界
への自由な交易願望は身悶えするほどの切迫
性があったと考えていいでしょう。
第二次世界大戦はドイツや日本が始めたので
はなく米国が周到に計画し、準備したもので
す。それはベトナム戦争もそうですし、アフ
ガン戦争もそう、そしてウクライナ戦争もそ
うです。
子どもの喧嘩なら先に手を出したほうが悪い
という裁定もできるでしょうが、近代の戦争
において近視眼的にある地域のある特定時間
での先制攻撃を根拠に「侵略戦争だあ」など
というのは愚の骨頂です。
インディアン(米先住民)が幌馬車を襲った
からといって一方的に彼らが悪で、襲われた
白人たちが犠牲者だから日本現代詩人会のよ
うに「インディアンの不条理」なんていえる
でしょうか。
これは安倍晋三暗殺事件にもいえることでし
て、サヨクリベラルはしきりに安倍を憎悪し
ていますが、そもそも安倍政治を世界的な視
座から評価した言説などお目にかかったこと
がない。内にばかり向いて安倍がなに? 口
利きしただのしないだのクソのようなどうで
もいいことを連日騒ぎ立てて、しかもその程
度のどうでもいいことで包茎大学じゃなく、
法政大学の教授で作家の島田雅彦は「一リべ
ラル市民として一矢報いた」と殺人テロを
万歳三唱している。アホとしかいいようがな
い。今の日本の大学教授、作家なんてのは、
この程度のアホばかりの集まりなんです。
はなしがそれてしまいましたが、
わたしたちが戦後教育や小説、映画などで刷
り込まれた常識というものはどうも、戦後の
GHQによる対日政策が影響しているのではない
かと疑われます。
占領軍司令官だったD・マッカーサーは議会で
の質問に答えて
「わたしたちは科学や文化において45歳の壮
年に達しているが、日本人は生徒の段階で、
まだ十二歳の少年である」と言ったらしい。笑
止というしかない。
事実はその逆で、実際には日本人は世界でも、
もっとも教育水準、文化レベル、政治・経済で
バツを抜いた国家であったのが真相で、むしろ
生まれたばかりの米国こそ12歳の少年であっ
たというべきじゃないかと思っています。
でも日本人はこういう言説を素直に信じてしま
ったのですね。
わたしたちは一度、この国の文化や国土のほん
とうの姿について学びなおすべきかもしれませ
ん。



散文(批評随筆小説等) 既存意識の全否定から始めては? Copyright 室町 礼 2025-04-11 10:09:16
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