広瀬隆「持丸長者」三部作を読んでいます。
これは膨大な資料を駆使して江戸時代の享保年間
から近現代までの日本の財閥、閨閥、学閥が蔦が
からみあうようにからみあって複雑に増殖する過
程を組織図や関係図の作成をもって明示している
ものですが、最終的にはそういう組織が「侵略戦
争」に至る必然性を解き明かしているつもりだと
著者ご本人はあとがきに書いてらっしゃる。
その著述の中で目を引くのは新聞と紙(パルプ)
の重要性です。日本の新国家は紙とペンから生ま
れたというのです。
広瀬によれば日本の「持丸長者」(資本家)たち
は近代に入るとすぐ新聞と製紙事業の支配に乗り
出した。
たとえば今現在のはなしになりますが、
もうほぼ半年間、連続して兵庫県知事、斎藤元彦を
テレビ新聞などで叩いている毎日新聞社は三菱財閥
創設者岩崎弥太郎の女婿、加藤高明が初代社主です。
当時は「毎日新聞」とはいわず「東京日日新聞」と
いっていましたが、戦争中に大阪の藤田財閥「大阪
毎日新聞」を吸収合併して社名を「毎日新聞」に変
更しています。
そしてこの毎日新聞社主、加藤高明がのちに第二十
四代総理大臣になって「悪名高い治安維持法を発動
した」ことは歴史のしるすところです。
広瀬隆が示す膨大な資料を見ていてもうひとつ気に
なったのは
毎日新聞グループと同じく執拗に兵庫県知事斎藤元
彦を連日、誹謗中傷している神戸新聞社の来歴です。
この新聞社は川崎財閥創始者、川崎正造が初代社長
です。日本におけるメディアと財閥のこの癒着ぶり
には驚愕しますが、わたしが気になったのはそれだ
けではなく、この川崎正造のひ孫があの『ドミノの
お告げ』の久坂葉子じゃないかと資料を読んでいて
ふと気づいたからです。
弱冠19歳で芥川賞候補になり、第二の太宰治と騒が
れながら20歳で、阪急六甲駅梅田行き特急に飛び
込み鉄道自殺を遂げた才能。
彼女の『ドミノのお告げ』は青空文庫で読めます。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001052/files/59891_77684.html
これは何回か読んだことがあるのですが、戦後、川
崎財閥は没落して、久坂葉子とおぼしき主人公は、
家に帰ると、冷や飯と一切れの大根の煮付けを寂しく
食べるという描写が冒頭に出てくるのですが、
もちろん久坂葉子の創作です。
調べてみると没落したとはいえ当時の川崎家は広大な
敷地を有する─それこそお城のような邸宅を構えてお
り、久坂葉子の父、川崎芳熊はその一角に住んで、こ
の小説が書かれた当時は神戸オリエンタルホテルとい
う超名門ホテルの社長でした。
小説にあるような咳ばかりして寝込んでいて久坂葉子
が売血して精気を保つようなそんな状態ではなかった。
『ドミノのお告げ』に描かれた冷や飯と大根の煮付け
一切れという夕食の描写には笑ってしまいましたが、
でもこういう虚構をそれらしく書ける才能というのは
たしかに可愛いとは思います。関西の作家仲間たちの
あいだで女好きと評判だった『死の棘』の島尾敏雄が
彼女を溺愛した気持ちはわかります。でもそれが奥方、
島尾ミホの疑惑を生むひとつの原因だったのかどうか
は神のみぞ知るです。
えー、話が脱線してしまいました。
神戸新聞や毎日新聞だけの話ではなく近代から現代ま
で日本の新聞社というのはすべて財閥の紐付きといっ
ても過言ではないような気がします。
読売新聞(旧 日就社)のように安田財閥の娘ふじの女
婿、本野英吉郎が社長であった新聞社も戦後は社主の
正力松太郎がアメリカの公文書や機密解除された資料
において、その名前がCIA工作員として日本に送り込
んだという文脈で登場する。
つまり正力松太郎はCIAのエージェントであったとい
うマンガのような話が事実として浮かび上がっている。
このような資料や歴史背景をもとに今現在の日本のメ
ディアの有り様を考えてみると、かなりヤバい。笑
たとえば安倍晋三、元首相がテロに倒れたときの各社
一面記事をみて下さい。
https://photos.app.goo.gl/Ag3gfnS33Bjfcc6QA
各社すべて同じタイトル。
これは、民主主義の国であってはならないことです。
これを大政(体制)翼賛というのですが、
戦後の一時期、終戦からしばらく十年か二十年ほどの
あいだのメディアは概ね、その姿を隠して穏健な民主
主義擁護の反戦平和を標榜していましたが今はまった
く違います。完全にもとに戻っています。
ただしその「戻り方」が非常に狡猾です。表向きはど
こまでも民主主義の守護神のような姿勢をみせて庶民
大衆を欺いているのです。
(この項、つづく)
※メディアが連日パッシングを続ける兵庫県知事、斎藤氏
の行政評価は行政実務に詳しくないのでまったく出来ない
のですが、それほど変わったことはしていないと思います。
政治力学的な方向からみると、かれが行っている緊縮財政
のためのさまざまな新方針がさまざまな既得利権を持つさ
まざまな方面の方々の怒りや憎悪を呼んでいるようですが
これは斎藤氏が「りっぱな」考えでやっているというより
ふつうのことを愚直にふつうにやってしまっているからで、
逆に言えばたんに融通の効かない単に真面目なだけの官僚
気質にすぎないでしょうね。それにしてもそれが日本中の
特権的既得権益層を怒らせるとは傑作です。