今日の証拠
ホロウ・シカエルボク

秋が重い腰を上げて、ようやく日も少しずつ短くなり始めた、空には一文字に切り裂かれたような雲が浮かび、そいつらを見下ろすように鱗雲が多足生物の足跡のようにぽつぽつと揺れていた、秋に生まれたせいかこういう景色の中に居ると俺は妙に安らかな気分になった、それで、帰りそびれて公園のベンチに長いこと腰を下ろしていたんだ、何処にも行けなくなったころ、よく昼間っからこんな風に景色を眺めていたことをふと思い出してね、なんとも言えない気分になった、特別今もマシになったわけじゃないからね、少し落ち着いているというだけのことさ、俺の人生は忌々しいループの中に投げ込まれているんじゃないかと思うことがよくある、特別大事でもない事柄のせいで煩わしいことばかり、付き合う価値もないような連中に絡まれたりする、まあ、どこの誰だってそういう思いは多かれ少なかれしていると思うけどね、そう、出来事自体は珍しい話じゃないんだけど、俺はそんな下らない出来事からでも様々な情報を汲み取ってしまう癖があるからね、そいつが少々面倒臭いんだな、多分最終的には、ヒトラーやフセインみたいな手段を取りたくなると思うよ、まあ、そんな権力があればの話だけどね、自分にそういう一面があるのは理解している、そして、そんな側面を知らずに生きるよりはちゃんとわかった上で生きていく方がずっといい、こんな話してるけど、俺、ガンジーと同じ誕生日なんだぜ、笑っちゃうよな、そう、結局のところ、俺はそんな出来事の中で自分の中を探りまくっちゃうんだな、そこで自分がどんなことを考えてるか、こう考えているけれどどこかでこんなことも考えているなとか、そういう認識を整理するのが本当に面倒臭いんだよね、そんでまあ、正しさから愚かさまで盛大にばら撒くことになるんだけど…この辺の不安定さは我ながら洒落にならないね、でもちゃんとマシにしようとは考えているんだぜ、何事も日進月歩だよ、本筋じゃないことでも少しずつ進歩していかなきゃいけないのは当り前のことじゃないか、それにさ、俺が住んでいるのは基本的にそんな進歩を知らずに暮らしている人間の為のコミュニティだから、反面教師には事欠かないんだ、こんな人間にだけはなっちゃいけないな、なんてやつが、そこら中でウロウロしているからね、多分、酒文化の街だからなんだろうけどね、暑い地方は駄目だよ、どんな自堕落な暮らしをしても、夏に数日、祭りで踊り狂えばそれだけで清算されると考えている、それだけの人生なのさ、まあ、俺にはどうでもいい話だけどね、俺に絡んでくることさえなけりゃね、俺はそういう人間を区別することが出来るけれど、彼らにはそれが出来ない、そういう認識の違いが俺に面倒ごとを運んでくるんだ、だけどしょうがないさ、俺が彼らを教育してやるわけにもいかないしね、俺と話が合わないのはだいたい、話しても無駄なヤツって感じだから…そういう連中が俺に絡んでくる時って、面白いんだよ、否定したい気持ちは目一杯あるのに、言葉が追いついていないから、変な後出しジャンケンとか、とにかく安いケチをつけるだけの言動に終始するんだ、自信の割に確固たるものを提示することが出来ないのさ、それはつまり、なにも考えちゃいないってことなんだよね、こちらがびっくりするくらい、彼らはなにも考えちゃいないんだ、だからすぐわかるんだよね、あ、こりゃあ絡んでもなにも生まれないやつだってね、そういう人間ってだいたい俺のことを嫌うんだよ、なぜだろうと思うんだけどね、おそらく、俺という人間のオリジナリティーが気に入らないんだろうね、だって、村社会ってのはそうだろ、自分を殺してこそ成り立つコミュニティだろ、日本って国は不思議だよ、どんなに文化的な暮らしが手に入っても、人との付き合い方は村社会の掟のままなにも進化しちゃいないんだ、みんなと同じ方を向くのが正しい、みんなと同じルーティンで動くのが正しい、みんなと同じ話で盛り上がれるのが正しい、この話わからないやつ居ないだろ?俺はそんなこと全部にまるで興味が無いから、村民たちはそれが我慢ならないのさ、まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、そう、それで俺は公園を後にした、夕方になったと思ったらあっという間に真っ暗だ、毎年のことなのに慣れることがないね、人間はいつだって時の流れに置いて行かれるものなのさ、夕食の準備が面倒で外で食べることが出来ないかとあれこれ探してみるものの、アレルギーに対応してくれる店なんてバカ高い店しか見つからなかった、しかたがない、スーパーでいろいろと買い込んで家に帰るともう夜の始まりだった、簡単なものを作って食べ、ゴールデンタイムだけはつけているテレビを見ながらコーヒーを飲むとあっという間に零時近く、無意識に過ぎる時間はいったいどこへ逃げているのだろう、睡魔にやられ始めた頭でぼんやりと考えながら、つくづく俺はだらけるのに向いていない人間だと自覚した、少し身体を動かして汗をかいてからさっとシャワーを浴びて、少し何か書いてから寝ることにするさ、自分で作らなければ納得出来ないんだ、今日という一日の証拠ってやつは。



自由詩 今日の証拠 Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-10-05 22:20:52縦
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