それはきっと初めから出来上がっている
ホロウ・シカエルボク


それはどこかにあるのか、それともどこにもなかったのか、違うやり方をすれば手に入れられたのか、近くにあったけれど見落としていただけなのか、要因なんて探せばいくつだって見つかるものさ、でもそんなことに固執したってこの先のことはなにもわかりはしないんだ、もはやどうにもならないことについてあれこれと考えても時間の無駄さ、そんなことをしているうちに少しでも先へ進むのが得策ってことだね、なにしろ人生は有限なんだぜ、その間に出来る限りのことをやらなくちゃ、それが正しかろうが間違っていようがやり続けた人間にしか辿り着けない場所というのは必ずあるからね、間違い続けた挙句最期の最期にたったひとつ有無を言わせぬものを作り上げた、そんな人生下手に成功するより格好いいことだと思わないか、人生はRPGじゃない、クエストなんてクリアーしなくても経験値は得られるんだ、イベントをこなすことだけが重要事項じゃない、自分の人生を売りにするやつが居る、子供の頃不幸だった、酷い目にばかり遭った、裏切られたり騙されたり捨てられたりした、だからひとかどの人間だ…なんてね、俺に言わせればそんなことどうだっていい、不幸な人間が全員強いわけじゃないし、幸せに育った人間が全員ノホホンとしているわけじゃない、重要なのはそんな人生の中で、そいつが一体どういうことを考えていたのか、その結果どんな学びを得たのか、それだけじゃないのかい?学ぶやつはどんな人生でも学ぶし、学ばないやつはどんな人生だって学ばないんだ、そんなこと改めて説明するまでもないことじゃないか、レッテルを貼る、という言葉があるだろう、レッテルを貼られるのを嫌がる人間は、他の誰かにレッテルを貼り続けているものなんだ、あいつは俺とは違うからこうだ…って具合にさ、無意味だね、空っぽの廃墟ぐらい無意味だ、まあ、建造物なら空っぽでも美しいとしたものだけどね、空っぽの人間なんて見苦しいだけだもんな、そうだな、例えば、目の前に死体がある、どんな死体でもいいけれど、出来るだけ残酷な絵面がいい―飛び降りて頭が割れたものにしようか、それが目の前にある、君はどうする?写真を撮ってSNSにアップする?そんな誰かを見て眉をひそめる?気持ちが悪いと言って立ち去る?そいつをじっと見つめながら、そいつがどうしてそんなことをしようと思ったのか考える?それともここから飛べば確実に死ねるなと考える?思いつく限りの行動の中で、どれが一番正しいと思う?そんなこと誰も定義出来やしないんだよ、すでに起こった死に対して、自殺なんていけないことだ、なんていうのはナンセンスだろ、俺に言えるのはそんなことくらいだよ、俺ならどうするのかって?じっと見て、人生を考えるだろうな、そいつが強そうな男なら、こんなやつがどうして死ななければならなかったのか、なんて考えるし、若い娘なら、余程のことがあったのかな、なんて考えるだろうね、まあ、余程のことが無くたって死んじまうやつなんて珍しくもないけどね、だけど、写真は撮らないね、そんなの撮っちまったらなんか連れて来そうな気がしてさ、死体を写真に撮ろうとは思わないね、正解なんて無いのが当たり前なんだ、そんな景色にしっくりくるたったひとつの答えなんて誰にも探せやしない、もしもそんな答えが探し出せるのなら人生なんて必要ないかもしれない、わからないまま進行するのが当り前なんだよ、すべてのことは…俺たちがすることはただただそんな人生に翻弄されながら懸命に生きるのみさ、それは必至で生きるっていう意味じゃないよ、生き急ぐとかそういうことでもない、あらゆる局面に選択肢があって、自分の為にそこから選択するというようなことさ、そしてその選択の良し悪しを問うことなく、すぐさま次の選択をしなければならない、もしもそこに決まりがあるとしたらただひとつ、出来るだけたくさんの選択をするということだ、たくさんの選択をするということは、たくさんの選択肢に気付くということでもある、気付かなければならない、それを選ぶことはどういうことか考えなければならない、真実に対しては無自覚で構わない、でも選択については自覚的に行われなければならない、ひとつひとつの選択に対して、自分の意志を持たなければならない、もしも人生に目標というものが必要だとしたら、そういうことでしかないんじゃないか、確かに選ぶことでしか、人間は先に進めやしないんだ…いいかい、正解だけが学びになるわけじゃないんだ、周辺に転がっているすべての出来事に学びがある、そこからどれだけのものを掬い上げるのか、そいつをどんな風に解釈するのか…真剣に取り組めばわかることがあるんだ、それは無自覚に安易なものに飛びついて生きるよりもずっと有意義で、厳しくて楽しいってこと、俺は求道者なんかじゃない、好き放題やって、それを無駄にしない、あらゆるすべての学びと感情を持って、次の一行に手を付ける、そうすれば俺のすべては、世界の電子の中で人知れず呼吸し続けることが出来るのさ。



自由詩 それはきっと初めから出来上がっている Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-10-02 21:46:17縦
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