地の塩に乾杯しよう
ホロウ・シカエルボク

そんなもんだよ、なんて分かったような顔したって、飽きもせず生きていくことなんて出来るわけもないし、俺がやりたいのはただ、現時点での俺を更新し続けることだけなんだ、昨日よりもほんの少し違うことをしたい、スタイルなんて所詮上辺の話さ、本質なんてそんなに変わりはしないものなんだ、だからそんなものにこだわるのは間違ってる、何でもやってみればいい、自分を把握出来てさえいれば正しく更新されていくんだ、長く生き残っている連中を見てみなよ、みんな何か新しいものを探して、アップデートを繰り返している、一貫性なんて継続としてあればなんとでもなるものなのさ、言わば着る服にこだわり過ぎて身体の弛みに気付かないようじゃ駄目だってことさ、もう実際、そうやって少しでも自分のことを納得させてやらないと、人生なんてつまんなくてしかたないぜ、立ち止まって言い訳するよりは昨日試していないやり方に手を付けてみる方がずっといいな、俺は一生そうやって生きていくだろうと確信している、これには終わりが無いんだ、そりゃそうさ、生き続けるために終わりのないものを選んだんだ、俺はこれをやり続けている自分が好きなんだ、ここさえ守っておけばほかでどんな道化を演じようと構わないさ、常にその先がある、常にその先を模索する、同じ言葉で行こうか、それともどこかから持ってこようか?いままでに使ったことの無い表現はあるだろうか、最近知った言葉の中にこれに使えるものはあるだろうか、猛スピードの中でハンドリングを選択し続けるレーサーのようなものさ、いや、別に詩に速度なんて何の関係もないものだけどね、頭を捻りながら少しずつ書き足したものだってそれは生み出すことが出来るんだ、これは要するに、読み手というよりは書き手の問題なのさ、俺はいつだって脳味噌の中で言葉が繁殖し続けているから定期的に吐き出してやらないと駄目なんだ、それも、生半可な量じゃ満足出来ないのさ、満足出来ない、なんて、すべての表現の基本のような気もするけどね、とにかくそういうことなのさ、俺はずっとそういう書き方を選んで、研いできたんだ、自分が書いているものがどんなものなのか、ディスプレイに写る文字を見て初めて知る感じさ、それぐらいの速度がないと身体の奥底にあるもののことは書くことが出来ないんだ、そう、一度出口まで連れてくればずるずると果てしなく這いだしてくるけれど、最初の言葉が出てくるまでに少し時間がかかるのさ、俺は書き続ける中で、こんな風に書こうなんて決めたわけじゃなかった、それは書き続けていく中で自然に決まっていったのさ、進化の過程で体型を変えていく生きものみたいなものさ、それは勝手に進化していくものなんだ、あれが駄目だからこれ、これは嫌いだからあれ、なんてやってちゃ成長しないのさ、それは結局何を着るか迷ってるようなものだからね、せいぜいコーディネートのセンスが磨かれていくだけのことさ、精神と身体を開いて、どこへ向かうのかを見極めればいい、書き方なんてのは人間の数だけあるのが本当なんだ、既存の型にハマりたがる時点でもう間違ってる、なんて、そこまで言うつもりは俺には無いけどね、継承して磨いていくやり方だってこの世にはきちんとあるからさ、まあなんていうか、早い話、どこまでそれに時間と気持ちを注ぎ込むのかというところじゃないのかな、本気で向き合う時間を重ねれば重ねるほどそれは磨かれていくものだよ、ただし闇雲じゃ駄目だぜ、自分を見失ってしまうほどのめり込んでは駄目だ、熱量だけじゃない、それを適温に保つ技術だって必要になってくる、つまりそれが変化ってことなのさ、違うやり方を覚えれば今までのやり方だってより明確に見えてくる、視点が変わるわけだからね、そうしてみんな自分のしていることを認識していくんだ、その流れを知り、傾向を知り、飲み込み、より深いところへと入っていく、海に深く潜る時、いきなり深いところまで突っ込んだりしないだろ、少しずつ進むことが重要なんだ、みんな焦ってしまうから分からなくなる、俺だっていまだに自問しながら書いている、俺はいま焦ってないかってね、焦っていると流れが疎かになる、それはただ勢いがいいだけのまがいもののようになってしまう、これは初めて言うかもしれないけど、俺がそういったことを凄く上手く出来るようになったのは最近のことだよ、ここ一年くらいで急に出来上がってきたんだ、おかしいよな、もう何十年もやっているっていうのにね、もう俺は余計なことを考えながら書いたりしないよ、それで充分なものが作れるようになったからね、いまようやくスタートラインに立ったのさ、ああもうまったく、夢物語みたいな願いが叶うとしたら、俺は不老不死になってみたいよ、そしてこの最高の遊びを、延々繰り返して何処まで行けるのか見てみたくってしょうがないんだ、有限だから意味があるんだって?それならあんたは不老不死を経験したことがあるっていうのかい?


自由詩 地の塩に乾杯しよう Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-09-30 22:35:18縦
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