漸近線の夜
ねことら

今日のことだけ大切で、昨日までは忘れた。
ぼくは地名も歴史もわからないし、
暮らしにはコーヒーと猫があればいいと思ってる。
AとかBとか記号のように生活を送る。


広い雨の大通りを、微生物の群れみたいな
ビニール傘が進んでいく。
いつもコマ送りみたいで、
毎日は数字に変換されて見分けがつかない。
公園、駅、学校、ドラッグストア、コンビニ、
どこも通り過ぎていくからひっかき傷もつけられない。


きみは、漸近線の夜を愛している。
夜はぼくたちの背骨に沿って
親密にそばにいてくれる。
夕食は大体パスタで、適当にチューハイを飲んで、
映画を見たあとセックスして眠る。その繰り返し。


楽しいこと、面白いことはサブスクですませて、
泣いたり、笑ったりするのもパッケージに詰めたまま、
このまま二人でどこまでも透明になっていきたい。







自由詩 漸近線の夜 Copyright ねことら 2024-05-19 14:55:18
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