爪音
どん底

君よ ひつぎに爪をお立てなさい
嗚呼 なんといびつに枯ればむ狂騒よ
爪音に滲む土のにおいよ
かなで落つるすべての草花と樹木の根のねいろよ
毟れたその爪よ 寂びた血で凝固したその爪よ
君よ ひつぎに爪をお立てなさい 

森のけものたちの逆巻く感覚に似たその背骨よ
かなたで脈打つ清水のしなやかさに似たその鎖骨よ
腐植土の中とうとい孤独に湿る葉かげに似たその肋骨よ
骨髄にしみわたるバクテリアのこわねよ 軋みこすれる磨耗の音楽よ 
はてしない君という音吐よ 君という大気のふるえよ

君よ ひつぎに爪をお立てなさい
なんと望まれないたましいよ
狂おしいほどに醜く
その穢れは太古のみどりのように
あやしく ひそかに 濃く 酷に酷に
然れどなんと美しくかなでられるたましいよ

君よ ひつぎに爪をお立てなさい
はてなくかもし熟れゆく旋律よ
はてなくおいしく腐れゆく戦慄よ
とりどりの生の空音も死の遠音も
すべては君へとつたって
嗚呼 なんとおもくにぶく澄みわたる音楽よ
君よ 僕のいとおしい爪音よ


自由詩 爪音 Copyright どん底 2005-05-15 12:46:18
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