伝えたい言葉を伝えるために
ベンジャミン

駅のホームで
迎えを呼ぼうと取り出した
携帯の電池が切れていた

取り残されたように
吐き出されてゆく人の群を眺めながら
一つの世界から切り離されれば言葉も出ない口を
カタカタとモールス信号のように鳴らしても
電波にはなってくれない

「帰りたい」
という純粋な気持ちを伝える方法が見当たらず
うつろに歩き出すとき
早回しのような人の流れに乗れないことに気づく
電池の切れたおもちゃのように人波にもまれながら
あきらめの視線の先
「帰りたい」
と、呟いた言葉が見えそうなほどでも

思えばそう
「早く帰ってきてね」
と、言ってくれる人のその言葉さえ
何かに置き換えてしまっていたのかもしれない
「早く帰ってきてね」
そのたった一言を受け止めることにさえ
心を使わなくなってしまっていたのかと


鋭く静かな夜の端っこで
「帰りたい」
と、もう一度呟きながら
確かに飛び交う見えない言葉たちが
星の瞬きのように儚く見えたとき

何にも置き換えるられることのない言葉を
ただまっすぐに伝えたいと思った

その方法をまだ
忘れてはいないのだと

   
      


自由詩 伝えたい言葉を伝えるために Copyright ベンジャミン 2005-05-15 11:45:21
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