春うらら
リリー

 六棟の高層マンションが近距離で建つ
 そこに住民の憩いの場として
 児童公園とグラウンドが設けてある

 広場の桜並木には二人掛けのベンチ
 一脚に休憩中の清掃員が一人座っている午後
 春うらら
 他にグラウンドには誰の姿も無いと
 見留めた途端
 マンションの陸屋根から下降気流が瞬く間
 並木周辺を覆い隠す

 よく見ると
 ピンクの うず潮がどよめいて
 高度を下げながら広場の中央へすり動く
 くっきりと
 もも色した大きな円盤が
 着地すると一瞬で消滅

 立ち入って見た広場の砂地に
 地上絵のようなドーナツ型した跡がある
 そうして花片の波濤から現れた
 ベンチに座る清掃員
 あの人は何を見たのだろう

 どうして消えてしまわなかったのか




自由詩 春うらら Copyright リリー 2023-03-23 14:51:08
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