女學生日記 五十八
TAT



三月四日 月曜
天氣 曇
起床 六時二五分
就床 十一時五〇分

朝空がくもつてゐたので水筒も靴も用意しないで學校へ行つた
そしたら行はれることになつた
小瀬の鮎の瀬橋を渡り南武藝を通つて武藝山蓮華寺に着く
そんなに大きいお寺ではなかつたが源頼政が宇治川の戰で敗け平等院で自害しその首が何故此處に収まつたかと云ふことを蓮華寺住持が滔々と述べられた
それから晝食を頂いた
山の頂上にあるお墓にお參りした
石碑には源頼政首塚と記されてありました
それから又 往時この附近の領主であつた伊賀守石川家の墓所を見ました
一万三千石の小名と聞きましたが非常に立派なもので石燈籠や石碑等とても〳〵多くさん大きな立派なのがありました
墓所の廣さは講堂よりずつと廣く古松が亭々と聳え下には丸い平い石がずつと敷つめてありました
非常に立派でした
それから山を越えた
私は革靴だつたので行きにもう豆が出来てとても痛かつたのを我慢して靴を引ぱつて行つたのだから山の中で靴をぬいだけど岩でとても痛かつた
時間が足りなくて汽車の人達が遲くなると不可ないと云ふので途中から强行軍で駈足をしたり早く歩かれたりしたので殘念乍ら靴を引づつては走れないから落伍してしまつた
元氣は溢れてゐるけど足が痛いから仕方がない
五時家にかへる
夜勉强する
明日は試驗です
体が大層だるい



三月五日 火曜
天氣 晴後雨
起床 六時〇分
就床 十時二〇分

今日は理科の試驗でした
一時間目でした
それからは映画でした
「金の話」「報恩」「マ|坊の冒險」等で非常に面白かつた
午後は大掃除で劇の總練習・展覧會場の用意等でした
夜お人形を作つた

三月六日 水曜
天氣 晴
起床 六時三分
就床 十一時二〇分

今日は地久節
國母陛下の御生れ遊ばした好き日である
式より劇・晝食・展覧會・バザ|を見る
夜勉强す



三月七日 木曜
天氣 晴
起床 六時〇分
就床 十二時〇分

裁縫は手藝を致しました
二時間目の数學は考査でした
國語は自習でした
バザ|に出品したものを貰ひました
理科は試驗を返して頂きました
大掃除で自轉車置場を掃除して六限はなくすぐかへりました



三月八日 金曜
天氣 晴
起床 三時十五分
就床 十二時五〇分

愈今日から試驗です
教室當番なので早く行つて掃除をした
朝礼の時 校長先生より不正な行をしないこと・奥田先生より規律を守ること・職員室の出入りについてお注意がありました
今日は國語と地理でした
教室のお掃除をしてから木戸さん達と吉田先生に音樂のことを聞きに行きました
歸つて来てから寢た
お隣の和枝さんが東京から歸つて見えた



三月九日 土曜
天氣 晴
起床 三時三〇分
就床 十時二〇分

朝礼の時 竹田宮大妃殿下薨去遊ばされました事についてお話が有りました
今日の考査は英語と音樂でした
英語の試驗は四点も取れない位です
島先生が長田さんに「三十六課を暗記出来る様にもう問題が出してあるから」と試驗の前日に言はれたのださうです
さうして黒板に書く様に言はれたさうですが書いて下さいませんでした
私はそんなことは知りませんからそこの解釋を島先生が仰言つた様にやつて行きましたから丸きり書けませんでした
其の事を長田さんに言ひましたら「あら、貴女知らなんだの?皆知つて見えたから私黒板に書かなんだわ」「私ようやつて居いたから書けたわ」と平気です
私は試驗を見た時ハツと思つてもう四点位しか取れぬと思つて泣けて書けませんでした
試驗用紙を出してから其の事を聞かされてよけい口惜くなりました
出来なかつたのは自分の不勉强で仕方がないけれど試驗前にその事を聞いてゐたならばよく調べて書けただらうと思ひます
長田さんは「皆知つて見える」と言はれますけど山口さんも須藤さんも篠塚さんも伊藤さん達もそんな事は知らないと言つてらつしやいます
まだ外にも知らない人は多く有ります
島先生が長田さんに「何故黒板に書かなかつたか」とお聞きになつた時「皆知つて見えます」と言はれたさうです
でも私は知りません


もう済んだ事は余り愚痴を云つてはいけません
やはり勉强をしつかりする事です
必ず神は助けの手をのべられます



三月十日 日曜
天氣 晴
起床 六時三〇分
就床 十時二〇分

今日は陸軍紀念日
空はよく晴れてゐる
裏庭の畑にサフラン・ヒヤシンス・水仙が芽を出しました
フランス人形を作り上げた
どんな名前にしようか妹達と會議した
「櫻子ちやんは」と下の妹
「だめよ西洋人形だから」と上の妹
とう〳〵小公女と云ふ本の中から選び出すことにした
皆さんがとても早く食事をお濟せになるから困ります
私は胃腸が弱く其の上齒も虫齒が多いのでゆつくり喰べますと皆の視線が私の所へ集つてゐる様な氣がしてとても喰べて居れません
其んなことで無理をしたのか胃腸が惡くなつて夜じん麻しんが体中一杯出てかゆいやら痛いやらでねむれなかつた
じつとして居れない
病氣つて本當に不自由なものだなあ
藥を吸んで寢た



三月十一日 月曜
天氣 晴
起床 二時三〇分
就床 九時三〇分

朝礼鷲尾先生で色々の行事についてお話がありました
今日は裁縫と理科でした
圖書室で掃除をして歸りました
ノ|ト(五)鉛筆キヤツプ(十)



散文(批評随筆小説等) 女學生日記 五十八 Copyright TAT 2023-03-12 10:05:54縦
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